調査に参加した運営委員は、この調査にすくなからず衝撃を受け、この経験がそれぞれの地区観察に独自の色合いを誘導することになるのである。
その成果は「秋季リーグ」に顕著に現れた。
「秋季リーグ」は、京都CDL構成チームによる地区調査分析提案のリーグ戦であり、各チームが受けもつ担当地区内で、その年に展開した活動をパネルにまとめあげ、全チーム発表を行い、その発表に対して、公開審査を経て、最優秀賞「京都CDLキング」を決定する。この成果物であるが、想像を遥かに超えて多様な内容であった。
京都の、「通り」のまちなみに着目し、その連続立面図を手書きで書き上げ、新旧混在する、ありのままの「まちなみ」を提示するという、京都女子大学。
都市の表層を被う看板やチラシの文字といった、記号のみに着目し、それをただひたすらオートマティックに書き記す京都大学竹山研究室。
大学の特色をストレートに出して、京都の町中に散在する茶室のあり方を調査報告する池坊短期大学。
京都山科盆地の中心を空洞化させ周囲をリング状に囲うことこそが山科の目指すべきあり方だとする(円環都市構想)京都大学布野研究室OB。
調査自体は行わず、京都美の典型たる鳳凰堂の空間構成を結晶化した建築を地区にはめ込んでいく京都造形芸術大学。
はたまた桂地区担当の市立芸術大学は担当地区の街路を結んで「桂」という文字を地図上に描き出し、立命館大学のリム研究室では西陣などの町に蓄積された伝統技術こそが地区の資源であるとし、その資源をまるごと活かすために地区全体をキャンパス化するという案を提示する、、。
まさに地区観察、地区提案の百花繚乱であった。「京都らしい」ということを一旦疑い、地区をありのままに見て、自らの観点で地区の特質をあぶりだしていくこと。断面調査を経ることで、それぞれの地区観察は確実に進化(深化)した。ここにおいて、「京都」「まちづくり」のステレオタイプからの脱却が相当程度、達成できたのであった。
「京都断面調査」「秋季リーグ」を経て、当初の目的は、かなり達成できたものと思われたのであるが、ここで新たな問題に直面する。地区を観察し、それを表現する表現法に関してである。多様な地区のあり方、見方があることは秋季リーグの結果に見るとおりなのであるが、「調査する」ということ、そしてそれを「分析」し「パネル化」することで、地区風景のダイレクトな魅力がそがれてはいくのではないか、という懸念、あるいは不満が生じたのである。これは特に調査を好まない、そして直感的表現が豊かな芸術大学側から提示されたものであった。そこで、考え出されたのが「京都地区ビデオコンテスト」 である。
「地区ビデオコンテスト」とは京都市内の地区(学区、行政区、限定された一領域)をロケ地として、その隠れた魅力をビデオ映像作品を通してひきだすものである。映像のジャンルはストーリーもの、ドキュメント、独自の風景描写法と、さまざまな表現法を許容するが、通常の映画と違って、背景が登場人物の心理等を引き立てるのではなく、登場する人物等の動きは時間をすすめる単なるバロメーターとして機能し、逆に主眼となるのはあくまで地区の風景そのものだという、独特の性格を有するものである。
この直感的風景描写は思いの他に有効で、地区の情景が生き生きと伝わるということ、そしてプチ映画として楽しんで制作も鑑賞もできるということ、またその映像は後にある時代の京都を映すものとして貴重な資料となるであろうことなど、さまざまな効用があるのである。
このコンテストは2001年度2002年度こそは実験的に小規模になされたが、2003年度には一般公募も行い大々的に開催された。受賞作も、ぼろ町家に住み、苦労しながらもそこに愛着を感じながら住み続けるというストーリーものや、根無し草とも言える郊外の原っぱの「空っぽな」風景にこそ帰るべき場所があるとするもの、また厳しい時代の波をうけながらも創意工夫し変化し続けることで、未来へつなげていこうとする商店街の姿をレポートするドキュメントなどが並び、地区を見る多様性はここでも形を変えながらも、保持、展開された。
このように都市観察法、都市描写法とも、名実ともに多様な在り方を展開可能にする方法を開発実践してきたわけであるが、このような活動の軌跡を記録する必要がある。京都CDL機関誌「京都げのむ」の刊行である。
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