2004年6月27日
広 原 盛 明(京都府立大学前学長)

  このレジュメは、2004年6月27日(日)午後1時半からビル・ホーコー(烏丸御池西入、100メートル)で開催される「洛西ニュータウン竹の里地域の景観を守る運動を支援する会発足の集い」の「シンポジウム、景観権の確立をめざしてPART・」の基調講演レジュメです。

1.20世紀における日本型都市計画の支配原理

(1)都市開発・都市成長の至上目的化:都市計画の基本理念と開発思想
「地域の発展とは都市化することだ」、「大きいことはいいことだ」、「改革なくして成長なし」、「大都市中心・都市階級論」、「都落ち」

(2)物的計画主義・ハコモノ行政:都市計画の内容と実現手段
  「ハコモノさえつくればナカミは自ずからできる」、「物的環境が人間や生活を決定する」、「目に見えるものにしかお金をかけない」、「花より団子」

(3)中央集権的官僚体制・画一的行政指導システム:
都市計画の主体と実現方法

  「都市計画はお上の仕事」、「国庫補助事業採択基準」、「先例・マニュアル」、「決定権のない市民参加・住民参加」、「ゆるやかな規制、建築自由の原則」、「官尊民卑」、「天下り」


2.その背景と成立要件

(1)発展途上国・後進国経済からの脱皮、急進的経済成長に対する信奉:
歴史的体質としての国家目標

  「富国強兵」、「脱亜入欧」、「国家総動員」、「追いつき追い越せ」、「エコノミック・アニマル」、「グローバリズム」

(2)企業主義国家及び土建国家体制に基づく
経済社会構造と地域統合システムの構築:
アジア的国家支配機構と地域政治システム

 「いい会社・いい学校」、「会社人間・企業戦士」、「業界団体・業界ボス」、「土建派議員」、「利権談合」、「地域有力者」、「草の根保守」

(3)人口・労働力の都市集中政策に基づく地価上昇システムの形成:
日本型都市計画制度の経済的基礎
  「土地神話」、「地上げ」、「売り手市場」、「土地バブル」、「区画整理事業」、「市街地再開発事業」、「土地高度利用ボーナス」、「市街地総合設計制度」



3.日本型20世紀都市の姿、京都と比較して

(1)青天井型高層都心地域の形成
  「画一的ゾーニング」、「過大容積率」、「青天井型高度制限」、「地下街」、「大深度地下利用」、−−−−「オフィス空室率の上昇」、「巨艦型再開発事業の挫折と破綻」、「3セク型再開発事業の空前の経営危機」、「アバンダンドビル(放棄ビル)の出現」、「セキュリティー不安とダウンタウン崩壊」

(2)京都の都市景観・盆地風景
  「高層ビル・マンションによる歴史的中心市街地の乱暴な景観・コミュニティ破壊」、「市街地総合設計制度の恣意的適用による町並み建築線・景観破壊」−−−−「日本の原風景としての盆地風景」、「周辺三山を含めた大景観・盆地風景の保全」、「山麓だけでなく都心地域をも覆う高度規制」、「五山の送り火が市内一円から見える建築規制」、「京都型中低層都心地域の可能性」、「木造建築・木造住宅中心の都心地域の復元可能性」

(3)郊外宅地開発前線の極限化
「職住分離・通勤型都市像」、「広過ぎる市街化区域の線引き」、「開発予備地域・市街化調整区域としての周辺農地の位置づけ」、「計画的ニュータウン開発とスプロール住宅地の物凄い環境格差」、「各種穴抜き開発の横行」、「農村計画とリンクしない都市計画」、「通勤限界線を超える宅地開発前線の拡大」、−−−−「公共交通削減、医療過疎化、市場・商店閉鎖など、人口減少時代の遠隔郊外住宅地・団地の立ち枯れ現象」、「初期入居者の一斉高齢化と要福祉・介護地域化」

(4)京都の周辺農村と田園郊外
  「洛中・洛外の歴史的落差」、「周辺市町村合併の歴史」、「京都市中心地域(旧京都市)と周辺地域の行政格差」、「とりわけ鴨川を境にした南北格差」、「京都市マスタープランのマクロゾーニングによる画一的指定地域化(伏見南部の準工業地域指定、処理施設の集中立地など)」、「コミュニティ行政視点の欠如」、「歴史文化財と農村田園景観の不連続性」、−−−−「宅地開発前線のストップ」、「里山・農村景観資源の再評価」、「京野菜ブームにみられる安心安全食料の確保」、「都市住民の創造的レクリエーション空間」、「子ども・大人の自然学習空間」

(5)まちなか市街地の混迷と衰退化
  「まちなか市街地(インナーシティ)の都市計画的位置づけの混乱」、「用途純化主義からの住商工混合市街地に対するネガティブ評価」、「最も建築規制がゆるい商業地域・準工業地域としてのゾーニング」、「まちなか居住空間としての機能・役割を否定排除」−−−−「歴史的まちなか居住空間の衰退・荒廃化」、「郊外への人口流出による市街地空洞化」、「学校統廃合による土地利用の混乱、まちづくり力の減退」、「人口減少による中心商店街の空洞化」、「まちなか景観・コミュニティの破壊」、「都市の歴史的遺伝子・アイデンティティの喪失と無個性化」、「都市魅力の喪失による入り込み客・観光客の減少、営業不振」

(6)京都の歴史的市街地とまちなか居住
  「伝統産業・地元商店街・町家居住の三位一体の歴史的市街地とまちなか居住こそが京都のアイデンティティ」、「画一的ゾーニングによる伝統的ライフスタイルを破壊」、「即席マス観光による駐車場拡大と交通混雑激化」、−−−−「町家ブームの意味するもの」、「町並み・まちなか景観の魅力こそがまちなか居住とまちなか観光の源泉」、「歩くことによるまちなか観光の魅力の再発見」、「子どもを安心して育てられるまち、高齢者が安心して暮らせるまちがこれからのまちづくりの最大指標」、「定住こそがサステイナビリティ・持続的発展の基礎」


4.21世紀のまちづくり原理としての景観権

1)21世紀における都市計画ファンデメンタルズ(基礎要件)の歴史的変化
  「人口減少・少子高齢社会の到来」、「都市の成長サイクルから成熟・衰退サイクルへの移行」、「都市の土地需要の縮小と分極化」、「斑状遊休市街地の拡大」、「地域コミュニティの分断と衰退」−−−−「拡大型都市計画からダウンサイジング型まちづくりの時代へ」、「フロー(移転)型都市計画からストック(定住)型まちづくりの時代へ」、「スクラップ・アンド・ビルド型都市計画からスローライフ・スロータウン型まちづくりの時代へ、漸進型まちづくりの時代へ」、「物的都市計画からコミュニティ育成型まちづくりの時代へ」

2)21世紀の都市計画・まちづくりにおける景観の意義・役割
  「人間欲求の発展構造」、「安全・安心、便利・快適、自己実現・表現の重層的発展」、「都市計画の第1段階、過密居住からの解放と公衆衛生の実現、建築規制・衛生設備など」、「都市計画の第2段階、都市活動・都市生活の利便性・快適性の確保、都市インフラ整備、土地利用ゾーニング、都市施設・住宅整備など」、「都市計画の第3段階、都市住民・市民の自己実現・表現の場としてのまちづくり、コミュニティ形成のまちづくり」−−−−「生活の質を維持するための景観」、「ライフスタイル・アイデンティティの表出としての景観」、「コミュニティ形成の基礎要件としての景観」、「室内・住宅ファサード・庭、近隣空間のたたずまい、住宅地・市街地の風合い、都市の品格・風格、はんなり京都、景観と風格の空間ヒエラルヒー」、「その持続的発展(サステイナビリティ)を保障するための景観権」

(3)先進的小都市での実験、
真鶴町まちづくり条例「美の基準」にみる建築原理

「場所の尊重:建築は場所を尊重し、
風景を支配しないようにしなければならない」 
「格付けのすすめ:建築は私たちの場所の記憶を再現し、
私たちの町を表現するものである」
「尺度の考慮:すべての物の基準は人間である。建築はまず、人間の大きさと調和した比率をもち、次に周囲の建物と調和しなければならない」
  「調和していること:建築は青い海と輝く緑に調和し、
かつ町全体と調和しなければならない」
  「材料の選択:建築は町の材料を活かして作られなければならない」
  「豊かな細部:建築には装飾が必要であり、私たちは町に独自な装飾を作り出す。芸術は人の心を豊かにする。建築は芸術と一体化しなければならない」
  「コミュニティの保全:建築は人々のコミュニティを守り育てるためにある。人々は建築に参加するべきであり、コミュニティを守り育てる権利と義務を有する」
  「眺めの創造:建築は人々の眺めの中にあり、美しい眺めを育てるためにあらゆる努力をしなければならない」

4)国立景観訴訟の意義(別稿)

(5)洛西ニュータウンにおける景観運動のこれから
  「ニュータウンとはなにか」、「ニュータウンは永遠にニュータウンか」、「ニュータウンの計画コンセプトは不変か」、「ニュータウンのゾーニング、建築規制、建築協定はこのままでよいか」、「ニュータウンは少子高齢社会にどう対応するか」、「ニュータウンのコミュニティ構成はこのまま維持できるか」、「ニュータウンにこれからどんな施設が必要か」、「ニュータウンにこれからどんな住民活動、コミュニティ活動が必要か」、などなど