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2004年4月25日 広 原 盛
明(京都CDLコミッショナー) |
1.現在の時代状況をどうとらえるか
21世紀初頭のいま、京都のすまい・まちづくりは歴史的転換期の最中に位置している。それは「フロー社会」から「ストック社会」への転換点において、20世紀の「モダニズム」(近代主義・成長主義)をそのまま継承するのか、それとも「ポストモダニズム」(脱近代主義・成長主義)の新しい流れを生み出すのか、文字通りその分岐点に立っているとの時代認識である。それはまた、計画・設計思想に関する単なる「コンセプト」としてではなく、建築家・プランナーの職能的・実践的な「パフォーマンス」として真価を問われているとの能動的把握である。

2.なぜ歴史的転換期なのか
わが国におけるすまい・まちづくりのモダニズムは、住宅設計ではとりわけ「マスハウジング」として、都市計画においては「マスタープラン」としてあらわれた。京都も例外ではない。マスハウジングとは、団地・ニュータウンにおける「計画的集合住宅」の大量建設供給システムのことであり、マスタープランとは、都市成長の一元的計画管理システムのことである。それは、すまい・まちづくりにおける大量生産システム、すなわち20世紀の工業生産を象徴する「フォードシステム」ともいうべき技術思想に立脚していた。
しかし、時代は変わった。「グローバリズム」の流れを喧伝して都市成長を依然として推進しようとする動きもあるが、大都市への人口集中はもはや終わりを告げ、いまやわが国は史上はじめて人口減少時代に突入しつつあることは明らかだ。都市の生成サイクル理論からいえば、京都は明らかに成長・成熟・衰退・再生の4段階の中の「成熟期」もしくは「衰退期」へと移行しつつあるのではないか。都市の成長期において求められたすまい・まちづくりの理論や設計は、いまや成熟期(衰退期)すなわちストック社会にふさわしいものへと取って代わられなければならない。

3.都市の成熟期すなわちストック社会の特質
ストック社会においては、生活ニーズとライフスタイルでは「スローライフ」が主流となり、新しさ・変化よりも安心・信頼・こだわり・本物が求められる。「クオリティ・オブ・ライフ」(生活の質)が重視され、量・画一性よりも質・個性が重視される。生活財はモノ(物的機能)だけの充足ではなく、「コト・イミ」(記号機能・物語性)が求められる。人間関係においては、あらゆる局面で個人化が一層進行し、家族関係の相対化・家族ばなれが進みながら、その一方で匿名性よりも知縁性・友縁性が求められ、大衆性よりも小集団性が求められる。すまい・まちづくりの面からいえば、移動よりも「定住」が支配的になり、キャピタルゲイン(不動産利得)よりも生活の質が重視される。そして定住要素として、個性・アメニティ・コミュニティ・ローカリティ・バナキュラーが求められる。

4.成熟期におけるすまい・まちづくりの要点
都市はこれから衰退することはあっても、もうこれ以上成長することはない。マスハウジングとマスタープランの時代は終わった。成熟期のストック社会におけるすまい・まちづくりは、すでに形成された市街地・居住環境をいかに改善・改良していくかが課題となる。それも行政や企業が上から環境を外科手術的に変える「スクラップ・アンド・ビルド」方式ではなく、住民・居住者がモザイクのようにところどころで漸進的に改善・改良を積み重ねながら、時間とともに環境と地域社会を成熟させていくような「スロー」で「サステイナブル」な方式である。
このようなすまい・まちづくりのあり方を追求する中で生まれてくるのが、実は「地区型住宅」のコンセプトなのではないか。それは、従来の「戸建住宅」・「注文住宅」・「作家住宅」といった場所性を無視した概念では言い表せない意味を持つ。
それは第1に、住宅が立地する地区環境の固有の歴史性・社会性・文化性を受け継ぎ、場所性を体現するものでなければならない。いわば「地区の文脈」に沿って、すまいづくりが求められるのである。したがって地区型住宅においては、地区の文脈をどう認識し解釈するかが決定的に重要だ。
第2に地区型住宅においては、ハード・ソフトの両面でコミュニティを重視した近隣共同性が求められる。いわばすまい・まちづくりにおけるコラボレーション(共働性)の実現である。物的環境を形成していくことが、すなわち地域共同体・コミュニティの育成につながるような有機的なすまいづくりである。地区型住宅の成果物は、単に設計図だけで評価されてはならない。それは、どのような設計プロセスで展開され、その中でどのようなコラボレーションの実を挙げたのかにも目を配りたい。
第3に、地区型住宅においては時間要素を重視したい。すまいづくりの要点は、家族とすまいの時間関係を近隣関係をも含めてどう有機的にデザインするかということだ。定住といっても個々の家族も近隣関係も刻々と変化する。例えば、通常の場合の家族のライフサイクルは、個人のひとり住まいから始まったとして、結婚あるいは同棲を通してパートナーとの生活が続き、子供が生まれて成長し、去った後も交流があり、やがては相次いで死を迎えるという順序で進む。この間の家族変化及び近隣関係の生涯にわたる時間変化をすまいづくり(改善・改良を含めて)にどう反映させるかがポイントだろう。

5.おわりに
このようなことを考えていると、これからのすまい・まちづくりにおいては建築家があまりイニシャチブを発揮しないで、ほどよい「脇役」にまわる方がよいかも知れないと思えてくる。「主役」はもちろん居住者自身であることはいうまでもないが、しかしその場合でもお互いにどのような関係を構築すべきかは、案外にわかっていないことが多い。このあたりも地区型住宅の設計においては是非考えてほしい点である。(本稿は、第4回春季リーグの基調講演のレジュメです)。
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