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現場主義の研究者として
〜私はなぜ、すまいとまちづくりの研究を志したか〜
広 原 盛 明

4 住宅・都市計画学における「近代・モダン」から「現代・ポストモダン」への移行の問題

 いくつか今後のことについて述べたいと思います。今私は、ポストモダン状況は随分以前から始まったといわれていますが、本当にやらないといけないのはこれからじゃないかと思っています。二〇世紀の後半、特に戦後の半世紀はまさに日本ではモダンの全面展開期だったと思いますが、それが持っているメリット・デメリットが全て集約されて、転換を迫られているのが現在だと思うのです。なぜ転換を迫られているのかということをいくつかの領域に分けて、最後にお話したいと思います。

4-1 成長型社会(経済、人口など)から成熟型社会への移行にともなう課題

 一つは、日本の経済社会が成長型から成熟型へ、もっと言えば衰退型に変わりつつあるという、全体の経済社会構造の大きな転換点が来ているということです。これまでの都市計画は、成長型の都市を前提にしてきました。五万の都市は一〇万になり、一〇万は三〇万になり、一〇〇万は二〇〇万になるというように、都市というのは永遠に成長していくものとされていました。例えば五万人の都市が一〇万人になると五万人分の水道から住宅、公園、さまざまな福祉施設、病院、商店まですべてつくらないといけない。しかし土地や空間を工場で製造するわけにはいかないので、限られた空間のなかにそれだけの施設をつくるというのは、たいへんな軋轢を伴います。そのため人口増加を予測していろんな施設を計画的につくらないといけないということから都市計画が生まれてくるわけです。その都市計画の中身は何かというと、ハコモノをつくるということです。なかでも道路計画というのはその根幹中の根幹です。これは、これまでの都市問題というのは空間、施設が足りないというハコモノ不足問題だったからです。ですから、都市問題を解決するためにはハコモノをつくらなければいけない。ハコモノをつくるのは誰かというと、土木と建築屋ですから、日本の都市計画の専門家は土木と建築で九割ぐらい占めています。日本の都市計画を担ってきたのが、ハコモノ屋であり、ハードな土木建築屋でした。しかし今は都市はもう成長せず、これからはむしろ収縮していきます。なぜかというと、経済活動一つをとってみても、今では都市に集中してきた工場やオフィスは必ずしも東京とか大阪につくる必要がなくなり、中国など外国へ行きますから。それから都市の最も根源的な要素である人口は、あと一年ぐらいでピークに達してこれから減っていきます。都市の人口が劇的に減ります。特に大阪府の人口減は凄まじく、二五年間で一六〇万人ぐらい減ると予測されています。そうすると、都市問題というのはハコモノ不足ではなくなってきます。学校をとってみても、千里ニュータウンで私達が計画をしていた頃は、当時小学校に児童が一四〇〇〇人ぐらいいたと思いますが、今、最盛期の二割ぐらいになっています。当時の教育問題は教室不足だったので教室をつくればよかったのですが、今の教育問題は何かというと、数の問題ではなく、不登校の問題や、虐待の問題、学級崩壊など、子ども自身のナカミの問題なのです。ですから都市問題は質的に変わったわけです。

 また私たちが計画した団地で今何が起こっているかというと、高齢化です。そうすると、かつての団地問題といったら住宅不足問題だったのですが、今は高齢者問題です。住んでいる人が、住民としての生活能力をどんどん失っていって、その団地に対して社会的にどう支えるのかという問題です。ですら都市問題は実はハコモノを供給することからナカミをどう支えるのかという問題に変わっています。都市問題の質がまったく変わったわけです。既にそのような都市問題の史的転換期は欧米先進諸国で一九七〇年代に起こっていました。日本ではまだ高度成長期の頃です。アメリカやイギリスでは、都市問題の研究者は八割ぐらいが経済学、社会学や心理学が占めています。さらに、日本の社会科学の伝統では住宅問題はやらなかったです。ですから結局私達がやりました。初期にセツルメント運動をやった人たちは社会学の分野でいるのですが、具体的にスラム問題をどうやって解決するのかというところまではやっていないのです。日本では都市計画のコンサルタントやまちづくりコンサルタントは建築学出身が多いのですが、欧米先進国では社会学や心理学の分野の人たちがやっています。だから、今後の都市問題は、地場産業の衰退をどうするかについては経済学にやってもらわないといけないし、地域社会の解体や家族の崩壊、犯罪の増加などの問題は社会学にやってもらわないといけない。このようなことが都市問題のこれからの主流になりますから、都市計画の課題も大きく変わっていきます。私は今、自治体職員の研修などに行くと、都市計画を土木建築の技術屋の問題だと思ったら大間違いで、あなたたちがやらないといけない、教育者、ケースワーカー、保健婦がやらなければいけない、そこがメインですよと言っていても、役所の行政機関では「都市計画は私たちの仕事とちがいます」と言われてしまうこともあります。