4.いま問われる再生の課題
それでは洛西ニュータウンを少子高齢社会に対応するサステイナブル・コミュニティとして再生させるためには、どのような課題と方法が考えられるであろうか。実はこの課題自体を考えるためにも「NPO法人洛西ニュータウン学会」(仮称)といった住民・行政・専門家のパートナーシップ型の調査研究機構が必要だというのが本論の結論であるが、ここではあらかじめその課題を仮説的に提示しておきたい。
第1は、洛西ニュータウンを住宅都市としてそのまま維持するのか、それとも自立性の高い職住遊学機能を兼ね備えた多機能コミュニティへ移行させるのかというニュータウンの基本的性格にかかわるまちづくりの課題である。筆者は「職・住・遊・学」といわれる都市基本機能の中で居住機能しか考えてこなかった日本型ニュータウンでは、これからの少子高齢社会に対しては効果的に対応できないと考えている。そのためにも、ニュータウンにおいて女性・高齢者・若者の多様な働き場と集まり場を創出すること、すなわち多機能コミュニティへの移行が洛西ニュータウンを再生させるまちづくり戦略として不可欠だと考えている。
もちろんこれからも大都市においては、郊外ニュータウンから都心の職場へ通勤するというライフスタイルが一挙に無くなるわけではない。しかし共働きの女性が男性と同様の労働条件を課せられるときは、通勤時間の長いニュータウンは職場と家庭を両立させる上でかなりの困難を伴う。ニュータウン内あるいは近傍に短時間で通えるような仕事環境をつくらなければ、子育て期の若い女性がニュータウンに安心して定住することは難しい。
また高齢社会においてコミュニティの活力を維持するためには、リタイア後の高齢者が従事できる多様な働き場が近隣で用意されていることが重要である。ただし高齢者の場合は、働き場といっても必ずしも現役時代と同じ条件で考える必要はない。SOHO(スモール・オフィス、ホーム・オフィス)、パート勤め、塾や文化教室の開設、プチ・レストランや喫茶店経営、工房やミニ店舗あるいは趣味と実益が同居するワークショップ経営など、多様な形態の働き場が用意されればよいのである。そう考えると、子どもが独立した後の空き部屋のある高齢者の自宅活用がもっと注目されてよい。高齢者夫婦だけの「エンプティ・ネスト」(空き巣)となった自宅をそのまま放置することなく、多様な働き場をそこに創出することによって、高齢者自身の活性化とまちの活性化を同時並行的に実現するようなまちづくり方策を考えることが可能になる。住宅内の営業行為が禁止されている公的賃貸住宅においても、多機能コミュニティが可能になるような柔軟な運用が求められることはいうまでもない。
若者・若年家族が楽しんで集まれる場所をニュータウン内や周辺に確保することもまちづくり課題としてきわめて重要である。ロードサイド・ショップとして肥大化しているゲームセンターやパチンコ店といったものではなく、若者たちの音楽サークルや文学・演劇活動などの文化創造活動に場を提供し、若年家族の交流を支援するような創造的な文化交流施設が強く求められている。最近では環境問題、福祉問題、平和問題などに取り組むさまざまな若者のさまざまなボランティアグループやNPOも数多く生まれてきた。彼・彼女らが自由に使える拠点づくりが切実なニーズとして急速に顕在化しているのである。ニュータウンの近隣センターをゴーストタウンにしないためにも、また近隣公園を非行の場や犯罪危険地域にしないためにも、そして学校の統廃合を防止するためにも、もっと多くの若者や若年家族が自由に集まれる場所や施設(仮設建築でもよい)を近隣センターや近隣公園あるいは学校などに設置することが必要である。そしてそのことは、自治会以外に見るべき近隣組織がない洛西ニュータウンにおいて、さまざまなコミュニティ組織やアソーシエーション組織が生まれる一大契機となるに違いない。
第2は、洛西ニュータウンの運営管理体制にかかわる課題である。上記のようなニュータウンのまちづくり改革を計画的に推進していくためには、それに必要なスタッフ・財源・権限を与えられた「洛西ニュータウン管理機構」(仮称)ともいうべきまちづくりの総合窓口が必要となる。現在は西京区役所の洛西支所がニュータウン住民のいろんなニーズに対応しているが、その役割は基本的には単なる窓口相談業務であって、それ以上の域を出るものではない。洛西支所がなにか具体的なアクションを起こそうと思っても、関連部局との合意がない限りなにひとつ実現できない仕組みになっている。住宅管理は住宅局、建築指導や道路・近隣施設関連は都市計画局、学校管理は教育委員会、バス運行は交通局など、縦割り組織の原則が厳然として作用しているのである。だから住民ニーズがどれだけ切実であり正当なものであったとしても、事業部局が「ノー」といえばそれまでである。まちづくりは総合的でなければ機能しないのに、行政組織は縦割りに分断され、横断的に機能していないのである。
洛西ニュータウンを多機能コミュニティへと導くには、そこには驚くほど多くの部局間の調整と合意が必要とされる。だが、そのことは現行の縦割り行政組織を前提にしていてはおよそ不可能であろう。例えば、住居専用地域に多様な職場や働き場を導入しようとすれば、都市計画局に掛け合って現在の土地利用・建築用途を法的に規制しているゾーニングを変更しなければならない。公的賃貸住宅で営業行為を認めようとすれば、住宅局はもちろんのこと国土交通省レベルでの交渉にも臨まなければならない。学校の空き教室をNPO拠点に利用しようとすれば、教育委員会との協議が不可欠である。コミュニティ・バス走らせるためには、交通局の合意が必要となるだろう。しかし、洛西支所にはこのようなまちづくりの難問を解決する資格も権限も与えられていない。
イギリスのニュータウン計画が総合的に実現されていった背景には、ニュータウン法によってニュータウンの計画・施工・管理が一元的にニュータウン開発公社に委任されたことがある。ニュータウン開発公社は、国と地方自治体からニュータウン開発に関するすべての権限を委譲されることによってはじめて総合的なまちづくりを進めることが出来たのである。わが国の場合、千里ニュータウンは大阪府企業局、高蔵寺ニュータウンは日本住宅公団、多摩ニュータウンは東京都・住宅公団などの共同企業体によって計画されたが、完成後は基本的に当該自治体に移管された。そして移管先の自治体が複数にわたる場合にはニュータウンが分割され、それぞれの自治体によって管理されることになった。ニュータウン全体のまちづくり方針について関係自治体の意見が対立し、合意をみることが難しくなったのである。しかし洛西ニュータウンは京都市域にあるので、一元的なニュータウン管理を実施できる「洛西ニュータウン管理機構」(仮称)のような総合管理組織をつくることも不可能ではない。要するはやる気の問題であり、関係部局の熱意の問題である。全国はじめてのこのような構想の実現が強く望まれるところである・・実匸・碵雹丘凾タ第3は、洛西ニュータウンの住民組織のあり方についての課題である。いうまでもなく現在のような区役所支所とニュータウン自治会との個別対応関係によって、今後のニュータウンのまちづくり戦略にかかわる基本問題を考えていくには限界がある。もし「洛西ニュータウン管理機構」(仮称)のような行政側の総合窓口が設立されることになれば(あるいは設立が遅れたとしても)、住民側にもニュータウンの将来を戦略的に考えていく組織が必要である。それが本論で提起されている「NPO法人洛西ニュータウン学会」(仮称)である。
NPO法人洛西ニュータウン学会(仮称)は、洛西ニュータウン住民・行政・専門家が対等平等の原則に基づいて組織するパートナーシップ型の調査研究組織であり、住民参加・市民参加型のまちづくりシンクタンクである。いわばニュータウン住民のまちづくり活動を支援する理論的コアともいうべき組織である。先行事例としては「多摩ニュータウン学会」があるが、現時点ではまだ萌芽レベルの段階にあり、行政との本格的なパートナーシップは成立するに至っていない。
洛西ニュータウン学会は、以下のような機能を持つことを期待される。(1)洛西ニュータウンの将来戦略を考える、(2)そのために必要な調査研究活動を住民・行政・専門家の共同で行う、(3)住民参加・市民参加の公開研究会やシンポジウムなどの開催を通して調査研究結果を公開し、住民ニーズを反映させ、世論の形成を図る、(4)戦略実現への道筋を明らかにし、具体化していくためのアクション・プログラムを作成し、それらを住民のまちづくり活動を通して実践する。
また組織運営としては、(1)まちづくり主体としての住民を育てるため、可能な限り多くのニュータウン住民をNPO会員として組織する、(2)専門家・行政関係者も個人あるいは法人会員としてNPO法人に参加し、組織的・財政的に支援する、(3)自治会など既存のコミュニティ組織と連携し、ゆるやかなまちづくりネットワークを構成する、(4)住民・専門家・行政間のイーコール・パートナーシップ原則に基づき、三位一体の運営を行う、(5)関心の高いテーマやトピックスに関する自発的グループを組織し、支援するなどである。