第1章、総論(広原執筆分)
・.おわりにー同和行政の終結が意味するもの
21世紀に部落問題を持ち越さず、同和地区を存続させないことが、同和行政の基本目標であり最終目標であるとするなら、同和行政の終結は、名実ともに部落・同和地区を発展的解消に導くものでなければならないだろう。言い換えるなら、同和行政が終結しても同和地区が依然として存続している、あるいは新しい形での「同和地区」が再生産されているようでは、それは何よりも同和行政終結の基本趣旨にもとるものといわなければならない。その意味で、東大阪市における同和行政の終結は、同和地区を発展的解消を導くための市全体のまちづくり戦略やグランドデザインに基づくことが要求される。
東大阪市の都市構造の主たる問題点は、(1)合併による地域不均衡を避けるための政治的配慮から、50万都市としての管理機能を機能的かつシンボル的に担う「都市核」(シビックセンター)の形成が遅れた、(2)その一方、合併前の各都市・各地域の個性と魅力を生かした「地域コミュニティづくり」の視点が欠如していたの2点に集約されるであろう。このため、一方では都市構造の骨格となるインフラ(道路・鉄道、上下水道、公園緑地、教育・福祉施設などの都市基盤施設)の計画的整備が進まず、他方では全市域にわたる市街地のスプロール開発(虫食い状の無秩序な開発)がなすところなく進行してきた。いわば、東大阪市は50万都市としての統一性も個性も形成されないないまま、無秩序な都市化の波に洗われてきたのである。
加えて、乱脈極まる同和行政と肥大化した同和事業がこの都市構造の歪みを一層助長した。本来ならば、市全体の骨格形成の視点から計画的に推進されなければならないインフラ整備が同和地区中心に偏在的・集中的に実施された結果、東大阪市におけるインフラ整備状況は著しく不均衡なものとなり、都市核の形成はもとより秩序ある市街地形成に対しても多大の困難をもたらすものとなった。また、同和地区を聖域視する同和行政・同和事業の跛行的展開が周辺地域との著しい環境格差をもたらし、結果として調和のとれた地域コミュニティづくりを妨げてきた。誤った同和行政の推進が東大阪市の都市構造の歪みを一層拡大し固定化する役割を果してきたのである。
21世紀はわが国が歴史上初めて遭遇する「人口減少時代」であり、かつ都市間の熾烈な「生き残り競争」が展開される時代である。1995年現在880万人を擁する大阪府人口は、国立社会保障・人口問題研究所の『都道府県別将来人口、1997年5月推計』によれば2025年には727万人(82.6%)にまで、(財)日本統計協会の『市町村の将来人口、1997年12月推計』によれば740万人(84.1%)にまで減少すると予測されている。これからの僅か25年間に、140万人(15.9%)〜153万人(17.4%)もの大量人口が大阪府から失われると予測されているのである。
中でも東大阪市の場合は、後者の人口推計によれば、51万7千人(1995年)から40万6千人(2025年、78.6%)にまで減少すると予測されており、25年間の人口減少は11万1千人、減少率は大阪府平均を数ポイント上回る21.4%となっている。この結果、東大阪市の人口順位は全国21位(1995年)から全国33位(2025年)に転落することになる。
東大阪市の人口は、高度成長期の転入超過によって1955年(昭和30)から1975年(昭和50)までの僅か20年間に26万3千人から52万5千人へと倍増するなど急激な成長を遂げた。しかしその後、1975年をピークに一転して減少傾向となり、阪神・淡路大震災にともない被災者が緊急避難してきた1995年と1996年を除いては、現在まで人口減少がほぼ一貫して続いている。人口減少の主な原因は、一時は年間最高2万4千人(1961年)にも達した転入超過人口が1970年を境にしてマイナスに転じ、さらに1975年以降は自然増(出世人口と死亡人口の差)を上回る転出超過が発生しているためである。よりよい居住環境を求めての人口流出が四半世紀にわたって切目なく続いているのである。
現在人口の2割を上回る人口減少・流出は、東大阪市の将来にどのような影響を及ぼすであろうか。それは一口で言って「空洞化した低質市街地の広がり」であり、「衰退地域の深刻化」であろう。20世紀の高度成長期の都市問題は、人口急増にともなうインフラ不足・住宅不足という「ハコモノ」の問題であったが、21世紀の低成長期においては、人口減少・人口空洞化にともなう地域経済の衰退、地域社会の崩壊、そして市街地環境の荒廃化という「三位一体の地域衰退問題」(いわゆるインナーシティ問題)が主たる都市問題として浮揚するからである。そして、もし東大阪市が21世紀の早い時期に同和地区の発展的解消に成功しなければ、市街地衰退化が一層加速されることはまず間違いない。
自治体行政にとって、人口は最重要の基本要素である。人口が減少するということは、その都市が市民の定住場所としての魅力を減じつつあることを意味する。魅力のない都市が「市民によって捨てられる時代」がすでに現実のものとなりつつある。東大阪市が同和地区の発展的解消と市街地の活性化を通して「都市アメニティ」(快適な都市環境)を高め、市民参加のコミュニティづくりの推進によって市民の「定住意識」を涵養し、都市の「持続的発展」(サステイナブル・デベロップメント)の道を選ぶのか、それとも現状を追認して同和地区の肥大化を放置し「都市衰退化」への道を歩むのか、20世紀最後の決断に東大阪市の運命が委ねられている。
|