9月18日:ニューヨークで知った安倍辞任報道、(2007年参議院選挙をどうみるか、番外編2)
もう止めようと思っていた「安倍シリーズ」を、またもや書く破目になってしまった。実はニューヨークにいた9月12日の早朝、CNNニュースで安倍首相辞任の報道が突如流れたのだ。日本人の私にとっては驚愕すべき大ニュースであったが、アメリカの各テレビは僅か10数秒の事実報道で終わってしまったのでその後の状況がまったくわからない。ニューヨークタイムスでも記事らしい記事が出ないので、仕方なく泊まっていたホテルの近くのロックフェラー・センターにある紀伊国屋書店に毎日通って、朝日新聞と日経新聞の国際版をほぼ日本の朝刊と同じ時刻に読んで、事態の流れをフォローせざるを得なかった。
それにしても安倍首相が辞任を決意した(表向きの)理由は、今国会でのテロ特措法の成立見通しが危うくなって、「国際公約」である海上自衛隊によるインド洋上でのアメリカ海軍への給油を継続できなくなったということであるらしい。そうだとすれば、当事者のアメリカはそれ相応の関心を払ってもよいと思うのだが、一般のテレビや新聞は無関心そのものなのである。
日本政府や政治家は、いつもアメリカの意向ばかりを気にかけている。何かあるとブッシュ大統領に電話でお伺いを立て、「ブッシュ・ホン」とまで言われた首相もいたぐらいだ。しかし、今回のアメリカのマスメディアの扱い振りから見ると、アメリカにとっての安倍首相の存在感は、せいぜい「給油スタンドの店主」が店をたたんだ程度のことではないかとさえ思えてくる。彼らにとっては日本の首相などは眼中にもないらしく、彼我の差をあまりにも痛切に感じた1日だった。
この間しばらく「つれづれ日記」が途絶えていたのは、ジャーナリストの友人たちと一緒に10日間ほどニューヨークに行っていたからだ。2007年9月11日は、6年目の「ナイン・イレブン」(コンビニの「セブン・イレブン」ではない)の日だ。世界を震撼させた911テロ事件が、6年前にニューヨークの世界貿易センタービル(WTC)で発生した日なのである。その後の6年間に現地ではどのような変化があらわれているのか、いろんな角度から見てみたい。これが今回の私たちのニューヨーク行きの目的だった。
911事件は、ブッシュ大統領がイラク戦争をひき起こす切っ掛けとなった世界的な大事件だ。と同時に、私のような建築・都市計画関係者にとっても衝撃的な大事件だった。それは、破壊されたツウィンタワーが日系建築家のミノル・ヤマサキ氏によって設計された著名な建築物だったからだけではない。世界を代表する超高層ビルに大型ジェット機が真正面から衝突するという想像を超えた事態が発生し、華麗で強靭だとされてきた超高層ビルが一瞬のうちに崩壊するのを衛星放送によって目の当たりにしたからだ。
しかしその後、その崩壊の様子を見た多くの建築構造専門家から、「ビルはジェット機の衝突だけで崩壊したのではなく、他の原因も重なっていたのではないか」との声が出てきた。とりわけ最近になって、ツウインタワーの周辺ビルまでが巻き添えを喰って崩壊したのは、「ビルの中になにか爆発物のようなものが仕掛けられていたからではないか」との疑問までが出ている。
「イラクは大量破壊兵器を持っている」、「イラクはテロ集団アルカイダと関係を結んでいる」とのアメリカのイラク侵攻の大義名分をブッシュ大統領自身が虚偽であることを認めざるを得なくなってから、ブッシュ政権への不信感が一挙に高まり、いまでは世界貿易センタービルや周辺ビルの崩壊までが疑いの目で見られるようになってきているのである。そしてその極めつきは、ブッシュ政権の「911事件黙認説」あるいは「911事件やらせ説」だ。
もちろん、このような「911事件謀略説」はブッシュ政権によって堅く否定されているが、アメリカ国民のなかで911事件に対する米政府の説明をそのまま信じている人は少ない。最近の世論調査では疑問に感じている人の比率がすでに過半数を超えていると言う。ブッシュ大統領は議会の弾劾に掛けられるべきだとの主張も日増しに大きくなっており、国民の多くは議会による911事件に関する再調査を望んでいるのである。
私たちは「グラウンド・ゼロ」(爆心地)と呼ばれる現場にも行ってみたが、数棟の超高層ビルが林立していた広大な敷地は、いまはもう基礎工事がすっかり終わっていて、かっての惨状を思い出させるものは何一つ残されていない。わずかに隣接するビルの1階に仮設の「メモリアル・コーナー」が設けられていて、当時の凄惨な現場写真や犠牲者への惜別のメッセージがパネルで表示されているだけだ。
6年目の9月11日当日は、小雨の中で午前8時半から追悼式が始まった。チェロやフルートが奏でられるなかで遺族が三々五々花束を捧げ、全犠牲者の名前をそれぞれの友人や家族が12名分ずつ読み上げては交代を繰り返すという形でセレモニーは続けられた。おそらく全部の名前が読み上げられるには数時間を要したことであろう(私はその途中で式の現場を離れた)。テレビでは式の一部始終が放映され、犠牲者の名前と年齢が写真とともに報じられた。そのほとんどが30歳代から40歳代の働き盛りの男女で占められていたことが本当に痛ましかった。
今からでもはっきりと思い出せるが、911事件の直後にブッシュ大統領が「これは戦争だ」と言ったことに、おそらく世界中の人々が奇異に感じたのではないか。しかし911事件が起きなかったら(引き起こされなかったら)、それ以降のイラク侵攻や「テロ戦争」も存在しなかった。全世界で「テロ戦争」が広がったのは、まさにブッシュ政権がこれに火をつけてからのことなのである。だから「アメリカ政府が911事件を黙認・誘発した」という「911事件謀略説」が一層真実味を増してくる。
そんなブッシュ大統領に対して、テロ戦争支援の「国際公約」をしたばかりの安倍首相が、帰国直後の国会冒頭において突然辞意を表明したことはとても偶然とは思えない。おそらく彼の小さな脳裏には日本国民の顔も日本政府の姿もなく、ブッシュ大統領とアメリカ政府に対する「公約違反」への言い訳だけで占められ、溢れていたのではないか。
先日、安倍首相が慰安婦問題の釈明でアメリカ議会や政府を訪れたときも、謝罪したのが日本軍の性奴隷であった慰安婦に対してではなく、ブッシュ大統領に対してであったことは、日本国内はもとより海外でも大きな批判を浴びた。それと同様に、今回の彼の辞任表明のなかには国民に対する謝罪は一言もなかったのが象徴的だ。
極めつきの国家主義者といわれながら、アメリカの「給油スタンドの店主」程度でしかなかった安倍首相の存在は、哀れでもあり痛ましくもある。しかし、そのような首相しか選べなかった自民党や公明党議員、そしてそのような議員を小泉郵政民営化選挙で選んだ日本国民の姿はもっと悲しい。(続く)