9月6日:離陸に失敗した安部改造内閣と財界の思惑、(2007年参議院選挙をどうみるか、番外編)

 前回で終わるはずだった「安倍シリーズ」日記をもう1回分書きたくなった。それは、内閣改造後にスムーズに離陸する予定だった安倍号が、彼自身の思惑や期待に反して離陸に失敗し、不時着とまではいかないが、目下地表すれすれの低空飛行を続けざるを得なくなっているためだ。

 改造直後の内閣支持率はたしかに若干上昇した。30%台後半から40%台前半の数字が各紙の世論調査の結果として並んでいたからだ。これを高いと見るか低いとみるかは各紙の立場で異なるが、私は安倍首相が「人心一新」に完全に失敗したのだと判断している。どの世論調査でも「安倍続投」に対する批判が強く、不支持が支持を大きく上回っていたからだ。

 また遠藤農水相の辞任も相当な痛手となったにちがいない。「1週間大臣」という新聞の大見出しは事態の本質を突いていて、久しぶりのヒット作だった。政治資金の処理で怪しいのは自民党議員なら誰ものことでいっこうに驚かないが、彼の場合には、自らが組合長である農業共済組合の不正受給(実態よりも水増し)が原因なのだから、これはもう立派な「公金詐欺」だ。しかも国の会計検査院に3年も前に指摘され、その勧告にもかかわらず返納していなかったというのだから、「公金横領」で立件されない方がおかしい。

 安倍内閣の「唯一のサプライズ人事」といわれた舛添厚労相は、国民の年金を横領した社会保険庁や市長村の職員を「牢屋に入れろ」と息巻いているが、牢屋に入れなければならない第1号は、まず同僚だった遠藤「前」農水相ではないのか。こんな「札付きの人物」が1カ月間もの念入りの「身体検査」に見事パスして閣僚に起用されるというのだから、安倍首相の任命責任は限りなく大きい。これはもう「100%安倍首相の責任だ」といってもよいケースなのである。

これまでの閣僚人事なら、この程度の問題はマスメディアも取り上げなかったので、今回の人事でも任命する側もされる側もタカをくくっていたのだろう。そこが安倍内閣ならではの「鈍感力」のなせる業だが、しかしさすがに今回はそうはいかなかった。なにしろ国民世論は本当に怒っているのである。ここのところがわからないから、国民に信任されてもいないのに、「政策を着実に実行していくのが私の責任」であるとか、選挙中は一言も言わなかった「美しい国づくり」を、選挙後は「新しい国づくり」と並べて復活させるとかいった「蛙の面にーーー」といった状態になる。

さすがに事態の推移を見かねたのか、経済同友会の桜井代表幹事が9月4日の定例記者会見で、記者団の質問に答えて、「農水相の問題には、驚いた。「調べてみないと分からない」というレベルの話ではなく、会計監査院から既に指摘を受けていたもので、正確な報告という以前の迅速な処理、対応の問題であり、絶対にあってはならないことである。国民は相当怒りを覚えていると思う。国をあずかる政治家の方々には、閣僚に限らず全員に、姿勢を正すことが早急に求められている。臨時国会の進行に対しては、大変大きな影響を及ぼすと思う。政策を議論するうえで中核になる内閣がこのような状態では、(進行において)ネックになる問題を醸し出すことになる」のと懸念を表明し、苦言を呈した。

しかし財界総本山の御手洗日本経団連会長は、いままで好き放題の発言をしてきたにもかかわらず、8月27日に「安倍総理・総裁には、改革の必要性に関して国民の理解をさらに深めるとともに、野党との国民・国益本位の対話を緊密にし、重要政策課題の解決にリーダーシップを発揮してほしい。民主党には、責任政党として、重要政策課題について現実的で具体的な対応を望みたい」と言ったきりで、その後はダンマリを決め込んでいる。自分たちの厚かましい要求の発言には熱心だが、代理人の不祥事には目をつぶって語らない。無責任なことこの上なしだ。

経団連はこの間、安倍内閣に対して「ホワイトカラーの残業只働き法案」(ホワイトカラー・エグゼンプション)を通せだとか、企業法人に対する実効税率を40%から30%への引き下げろだとか要求し、その減税分4兆円を消費税引き上げという大衆課税でまかなうことを提唱してきた。小泉内閣が積み残した課題を何とかして安倍内閣にやらせようという魂胆なのである。これが安倍首相の「改革を実行する」と絶叫することの背景なのだ。

だが、参議院選挙敗退と今回の安倍改造内閣の一連の不祥事は、これら財界の思惑を完全に吹っ飛ばしてしまった。経済界はもはや安倍政権を見限っているのではないか。御手洗会長の沈黙は、「言っても仕方がない」との態度表明とも受け取れる。そうなると、次のステージで注目されるのは、財界からの小沢民主党への働きかけだ。

これまで民主党の財界への態度は、「擦り寄り」ともいえるほど見苦しいものだった。10日から始まる秋の臨時国会では、テロ特措法案が最大の政治課題であることは間違いないが、それと並んで財界に対する小沢民主党の対応が注目される。なにしろ安倍内閣の予算編成方針は、財界要求に対する「思いやり予算」で溢れており、国民世論に対しては「やらずぶったくり」の方針で貫かれているからだ。

今日のラジオニュースで聞いたところでは、安倍首相はこの臨時国会で「優しさと温もり」の政治姿勢を打ち出すのだそうだ。私は一瞬、それは財界への「優しさと温もり」ではないかと思ったが、実は国民向けのものであるらしい。小沢民主党はこの事態にどう立ち向かうのだろうか。注目して次の出方を見守りたい。
戻る