4月3日:財政再建計画は地域再生につながるか、「夕張ショック」の物語るもの(その5)
日本の地方自治史上、これまで自治体の財政破綻がストレートに自治体崩壊や地域崩壊につながった例は少ない。通常は、財政再建計画を通して時間をかけながら行財政を建て直していくのが筋道だ。今回も建前はそうなっている。だが、夕張市の財政再建計画が計画通りに進むと考えている人は誰もいない。また財政再建計画が夕張の地域再生に結び付くと考えている人もいない。それは、この再建計画がこれまでの乱脈市政に対する「ペナルティ」(見せしめ)という性格をもち、かつ現在進行中の新自由主義的地方分権改革を推進するための「スケープゴート」(生贄:いけにえ)としての役割も課されているからである。
夕張市の財政再建計画は、約353億円の負債が完済する18年後の2025年人口を概ね7300人と想定して策定されている。だが、こんな大甘の人口推計を誰がいったいどんな方法で弾き出したのかがよくわからない。ちなみに国立社会保障・人口問題研究所の「小地域簡易人口推計システム」を使って計算してみると、2025年人口は5600人程度となって、再建計画人口の4分の3程度の水準になってしまう。それにこの推計値は「平常時」における数字であって、1995年から2000年までの5年間のこれまでの減少傾向をそのまま引き延ばしたものにすぎない。今回の財政破綻のような「非常時」がその後に発生した場合には、平常時をはるかに上回る人口流出が引き起こされるとみるのが常識なのだ。
将来人口は、地方交付税の算定基準となる基準財政需要額に直結している。人口が減少すれば、ほぼそれに応じて地方交付税も減額される仕組みになっているのである。それに市民税や固定資産税などの地方税収も確実に減る。もし推計人口が大幅な下方修正を迫られるようなことにでもなれば、財政再建計画そのものが成り立たなくなってしまうのである。人口問題研究所の推計方法では18年後の将来人口が平常時でも5600人程度だから、財政破綻という非常事態に陥った今回の場合は、5千人の大台を維持出来るかどうかもきわめて疑わしい。むしろ、現在人口の3分の1程度の4千人台にまで減少すると見た方が自然なのだ。
このように再建計画人口が架空の想定に立っていることに加えて、その再建の中身がまたまた凄まじい。財政再建計画の本来的な目的は、地域住民の生活を維持するために自治体運営を正常な姿に戻すことにあるはずだ。最終的には財政の帳尻を合わせることも大切だが、そのこと自体が最大の目的ではあるまい。帳尻を合わせることに成功しても、その結果として住民生活が破壊され、地域社会が崩壊すれば、「手術は成功して患者を死なせる」ことと同じことになりかねない。ところが、どうみてもこの計画は「患者を生かす」ようにはなっていない。「全国最高の住民負担で全国最低の行政サービス」という構造改革的な「外科手術」をすることが自己目的化している。比喩的にいえば、会社更生法や民事再生法の適用を掲げて会社を再建するかのように見せかけながら、その実は破産処理を強行する「整理屋」や「バッタ屋」の類の計画としか思えない。
地域住民が生きていくためには、一定水準の所得が保障され、保育、教育、医療介護、福祉、文化、消費などの必要最小限の生活ニーズが満たされることが不可欠だ。だがそれら全ての生存条件を地域から引き剥がして、住民生活を原始時代に帰そうというのがこの「再建計画」なのである。具体的な内容をみよう。
まず雇用と所得の面では、「石炭の歴史村観光株式会社」、「夕張木炭製造株式会社」、「夕張観光開発株式会社」という市の3セクが悉く自己破産し、パートを含む従業員246人全員が解雇されて収入を失った。これら3セクが経営していた主要観光施設17カ所は一括して民間の観光会社に運営委託されたが、従業員は給与を大幅カットされて一部再雇用されたにすぎない。また10科170ベッド数の市立病院は廃止されて職員91人が解雇され、常勤医師2人、19ベッド数の診療所に格下げされて民営移管された。消防や病院職員を含む市役所職員317人のうち152人が退職し、残るは165人となった。今後は4年間で消防職員を除いて103人にまで削減し、職員の給与月額は平均30%カット、ボーナスは60%カットするという。職員の退職金は2006年度57カ月、07年度50カ月とし、以降毎年10カ月ずつ削減して2010年には20カ月までに落ち込むことになっており、とにかく「早期退職」に追い込むようになっている。なお市長など特別職の給料は60%カット、期末手当は80%カットである。
一方、公共施設の廃止や縮小も軒並みリストアップされていて、あとはほとんどなにも残らないといっても過言ではない。孤立する谷合いの地区のために設けられていた窓口業務や相談業務を行う市役所の連絡所5カ所も全て廃止。市民会館など集会施設4カ所、共同浴場1カ所、公衆便所5カ所、公園13カ所、プール、テニスコート、球場など体育施設9カ所、図書館、美術館、養護老人ホームなども廃止。7つある小学校は最終的に1校、4つある中学校も1校に統合されて、118人の教員のほとんどは転勤となる予定だ。また市民税、施設使用料、下水道使用料、保育料などが軒並み値上げされることはいうまでもない。要するに、構造改革がめざす新自由主義的地方分権改革のお手本が、この夕張市の財政再建計画なのである。そこでは、憲法で保障されているはずの「健康で文化的な最低限の生活」を維持するための公共施設や公共サービスが、財政再建計画によって根こそぎ奪われる仕組みになっているのである。
この財政再建計画は、昨年の不正経理の発覚以来、北海道庁から派遣されてきた3人の道庁職員によって実質的に策定されたといわれている。また4月1日からは7人に増員された道庁派遣の職員が、市役所の理事や課長などの幹部職員となって行財政運営の実権を一手に握ることになる。このような市役所の実態は、夕張市がすでに自治体としての機能を喪失し、道庁といういわば「破産管財人」の手によって直轄的に管理されていることを示している。しかし、本来は市町村の補完事務を担当すべき道庁が、基礎自治体である市町村を直接的に指揮命令するといった事態は、明らかに地方自治法の趣旨に反している。また財政再建計画の根拠法である地方財政再建特別措置法が、上位の憲法理念を踏みにじって住民の生存権を奪うことなど憲法違反であることもいうまでもない。
おそらく市役所の運営は、早晩多大な困難に直面することは間違いない。それは、残留した市職員が給与とボーナスを含めて年間4割もの所得カットに果たして耐えられるかという問題がいよいよ現実化してくるからである。20歳代の職員の場合は、手取り給与は月10万円を切るとされており、もし職員に子どもがいる場合は生活保護世帯以下の水準になってしまう。この間、多くの職員は残務処理に忙殺されていたことから思うように再就職活動も出来ず、この年度末を迎えたというのが実態だ。新年度になって大幅な給与カットという厳しい現実に直面した時、愕然とする事態がやってくるのは目に見えている。また道庁派遣職員との間の大きな給与格差もこれから深刻な内紛の種になるだろう。同じ職場で働きながら、市職員と道庁派遣職員の間では年齢差も含めて最低2倍、最高5倍近い給与格差が生まれると推測されているからだ。加えて退職年度が遅れれば遅れるほど退職金が加速度的に減額されることも、今後の市職員の退職は途切れることがないだろう。そうなれば、これからの地域再生の中心を担わなければならない市役所機能が麻痺し、行政組織が空洞化して一層の困難が生じることは火を見るよりも明らかである(続く)。