2月24日:小泉後継政権の疲労破壊(その4)、安倍内閣と民主党の改憲ジレンマ

 2月20日、朝日新聞の一面トップで「(安倍)内閣不支持40%」、「支持37%、初の逆転」との大見出しがおどった。昨年9月の発足時に63%もあった内閣支持率が、1ヵ月毎に行われる世論調査のたびにほぼ直線的に低下し続けているのである。この傾向は、同日の朝日社説が「もはや赤信号に近い」と論評したように、安倍内閣に対する否定的評価が急速に国民の間に浸透しつつあることを物語るものだ。

政党支持率をみると、自民党と民主党が1ヶ月前にくらべてともに3%ずつ減らして29%と13%に低落しているのが目立つ。とりわけ自民党支持率は、安倍内閣発足以来、ピーク時の42%から29%への急落ぶりだ。さしたる政治実績もないのに、選挙時の「広告塔」として安倍首相を担いだツケが早くも回ってきたということだろうか。それとも一連の閣僚不祥事や不規則発言が「負の連鎖反応」を引き起こしたからだろうか。

だが一方、最大野党の民主党の低落ぶりも予想外に大きい。前回の参議院選挙で大躍進したときの勢いはいったいどこにいったのであろうか。通常、与党の支持率が低下すれば野党の支持率は上がるのが普通である。とりわけ2大政党制の場合はそうだ。イギリスでは目下、イラク参戦によるブレア首相の不人気が労働党の支持率を著しく下落させ、保守党の支持率を急上昇させている。しかし日本では最大野党が「支持政党なし層」だといわれるように、今回の世論調査でも与党と最大野党がともに減って、「支持なし」が前回から5%もアップして45%に達しているのである。

この世論調査の数字を検討してみると、現在の複雑な国民感情のありかが垣間見えてくる。安倍(自公)内閣には失望したが、しかし民主党もどことなく胡散臭くて信用できない。共産党や社民党は(マスメディアでは)いったいどこにいるのか、ほとんど姿がみえない。だから問題は山積しているのに出口が見えないし、どんな政党を支持したらよいかもわからない。多くの国民は「無党派」か「支持政党なし」になるほかはない。ざっとこんなところだろうか。

こんな視界不良の国民世論の波間で、日々綱渡りの政界運営を強いられているのが小沢民主党だ。自民党と政策がほとんど同じなのに、表向き「対決ムード」を盛り上げないと支持率を上げることができない。そこで勢いその行動は、政策対決よりも「国会戦術」に重きを置くことになる。政策で堂々と勝負できないので、欠席戦術をはじめ相手側の「敵失」に乗じた「揚げ足取り」作戦が中心になるのである。これでは国民から信頼されるのはとうてい無理というものだ。

こんな民主党の体たらくを見透かしたかのように、自民党は5月3日までに改憲国民投票法案を強行採決すると言っている。というよりは、これまでの民主党との合意に基づいて予定通り法案を提出するよと迫っているのである。枝野議員(民主党憲法調査会長)は、もともと5月3日の憲法記念日までに法案をあげると言明していたのだから、公党間の約束だといってよい。小沢代表は果たしてどのような態度に出るのだろうか。

考えられるシナリオは3通りある。第1は、自民党と民主党が改憲投票法案を共同提案するシナリオである。これまでの筋書きから言えば、両党間にはこのシナリオしか残されていないのだが、しかしこの行動は、60年代のような安保闘争並みの改憲反対運動を引き起こす可能性がある。改憲などいまだ遠いことだと思っている国民の目の前に、ある日突然、衣を脱ぎ捨てた鎧姿の「巨大な改憲軍団」が出現するのだから、世論に与える政治的衝撃は計り知れないだろう。世の中はおそらく「蜂の巣」をつついたような騒ぎになるに違いない。

でもこの選択は、自公民3党にとってはかなり危険な賭けである。国民投票法案がはやくも改憲の「正体」を暴露してしまったのでは、肝心の改憲が国民投票によって否決されるおそれがある。そうなると何のために投票法案を強行採決したのかわからない。そんな「逆効果満点」の戦術などさすがの自公民3党も取るとは思えない。もし本気でこのような暴挙が考えられているとしたら、日本は実質的にファッシズム国家へ変貌しつつあると覚悟しなければならないだろう。

第2のシナリオは、自公与党が強行採決して民主党がそれに加わらない場合である。民主党にとってはこのシナリオが最善の策だ。なにしろ相手に責任をかぶせて自分の意図を実現できるのである。「無手勝流」というやり方だ。自民党の方は、今の安倍内閣の不人気さに「危険」「不気味」という新たな要素が加わって、おそらく次の参議院選挙や総選挙では惨敗を喫することになるだろう。そうなると民主党は労せずして政権を手に入れることができる。自民党を悪者に仕立てて自分はよい子になり、ほとぼりが冷めるのを見計らって悠々と改憲への道を進めるわけだ。

しかし、こんな馬鹿げた戦術を取るほど自民党は馬鹿ではないだろう。だから民主党を揺さぶる材料には使っても、実際に強行することはまずないと見てよい。またこのオプションとして、民主党ネオコン派を自民党に引き入れ(共同歩調をとらせ)、自公だけの強行採決を避けるという方法も考えられる。でもいまの民主党そのものがネオコン派によって主導されているのだから、よほどの論功行賞でも約束してもらわなければ、そんな手に乗ってもあまり得にはならないだろう。

とすれば、自公民3党とも当面は改憲国民投票法案は見送りということになる。なにしろこれだけ低い内閣支持率では、国会内の議席数だけを頼んで強行採決すると、内閣そのものが崩壊するおそれが生じるからだ。政治経験の未熟な(それに能力もそれほど高くない)安倍首相にはそれがわからないらしく、依然として改憲を参議院選挙の争点にすると頑張っているが、周辺のベテラン連中はそんなことを許さないだろう。

決論的にいえば、小泉後継政権である安倍内閣も、その実質的な友党である民主党も、実は政策的に決定的に行き詰まっているのである。どんな世論調査をとってみても、国民は改憲や教育基本法の改悪などこれっぽっちも望んでいない。小泉構造改革の「負の遺産」である「格差・貧困問題」の解消、すなわち不安定低賃金就労の抜本的改革、年金・医療・福祉など社会保障の確立、充実した公教育などを切実に求めているだけだ。小泉構造改革にブレーキをかけ、ハンドルを切ることを要求しているだけなのである。

ところが何を勘違いしたのか、安倍首相は小泉構造改革に「アクセル」を踏んで一気に教育体制や憲法までを変えてしまおうと思っている。小泉後継政権に指名されたのだから当然といえば当然といえようが、小泉構造改革はもうとっくに「賞味期限」どころか「消費期限」が過ぎてしまっているのである。それをわからない財界や政界タカ派の連中が小泉時代の夢が忘れられなくて、いつまでもそれにしがみついているだけのことなのだ。

いまや安倍内閣の「命綱」は拉致問題だけになってしまった。今回の世論調査でも、北朝鮮に対する安倍首相の強硬姿勢だけは恐ろしいほど圧倒的な国民の支持を得ている。最近のNHKニュースをみても、拉致問題はどんな些細な話題でもいつもトップニュースになっているから、その影響があらわれているのだろう。翌日の新聞各紙では社会面の3面記事程度のニュースが、NHKではいつもトップニュースになるのである。

政府はNHKに対して国際放送で拉致問題を報道するよう命令を出しているが、国内放送でもこの方針は貫かれているのではないか。テレビ画面ほど拉致問題を効果的に国民感情に植えつけるメディアはないからだろう。アメリカの反響に関しても、ボルトン全国連大使とかチェイニー副大統領とか極め付きのタカ派発言だけが繰り返し報道される。国民の狭隘なナショナリズムを拉致問題を徹底的に利用して煽るのが安倍内閣の手法であり、またそれがいまや安倍内閣の唯一の存在意義になっているのである。

だが安倍内閣を登場させた拉致問題も、今度は逆に安倍首相の強硬姿勢によって次第に解決が遠のいていく。6カ国協議の線から日本が外れることによって実質的な「日本外し」の状況が現出するからである。ブッシュ政権の退場はもう目の前に迫っている。最後に残ったチェイニー副大統領が去る日も近い。「日本外し」の5カ国間の外交交渉の進展によって、制裁によって拉致問題の解決を図ることを「公約」に掲げる安倍首相は、まさにその「公約」によって自縄自縛の状態に陥るだろう。また国民世論が劇的に変化するのもそのときである。

安倍内閣も小沢民主党もいま「改憲ジレンマ」に陥っている。それは救いようのない国民との間に横たわる政策上の矛盾のゆえある。国民あっての政党だ。その政党が国民を一時的に騙してもずっと騙し続けることはできない。小泉構造改革の「悪夢」からようやく覚めつつある国民は、これから長い期間にわたって小泉後継政権やその亜流政権の政策と「我慢比べ」することになる。問題は、国民がその「我慢比べ」にどれだけ耐えられるかである。(終わり)

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