12月15日:耐震強度偽装事件の国会証人喚問をみて

 昨日14日の証人喚問はとても面白かった。午前中の姉歯(元)建築士の喚問だけをみて午後は大学に行くつもりだったが、内河総研所長が今回の事件の「本命」だと思っていたのでついつい一日中見てしまった。お蔭で今日は頭がボーとしている。テレビの見すぎが身体によくないことがよく分かった。

 今朝の新聞もその記事で持ちきりだが、焦点が相変わらず姉歯(元)建築士に当たっていることはこれまで通りだ。しかし総研の役割がだんだん暴露されてくるにつれて、世の関心は次第に総研に移っていくだろう。昨日の証人喚問の感想を「ヤクザ映画」風にいえば(下品な言葉づかいをお許しください)、内河総研所長=組長、篠塚(元)木村建設東京支店長=番長、姉歯(元)建築士=パシリといったところだろうか。

 テレビというメディア媒体の凄いところは、新聞記事などの活字情報では窺い知れない事件の内情をリアルに映し出すことだ。そのことの政治的影響を恐れた自民党によって一時テレビ中継が中断された時期があったが、世論の批判がその後の復活につながった。私はもっぱら4人の証人の表情に注目していて、事件の全体構造をよく理解することができた。

 まず姉歯(元)建築士は、すでに偽装事実が余りにも明白になり(もはや隠し果せなくなったということ)、また自らが「単独犯」に祭り上げられることを恐れているので比較的正直に事実を述べたのではないか。それに一級建築士資格をすでに剥奪されており、彼にはもはや失うものがなかったという事情もあろう。しかしこの人物の淡々とした表情には、重大な犯罪を惹き起こしたことへの自責の念や被害者への謝罪の気持ちが微塵も読み取れない。おそらくは社会的規範や市民常識を完全に欠落させた極めて自己中心的な性格の人物なのだろう。篠塚(元)支店長の恫喝に屈した「自分の弱さ」を強調して、「自分も被害者」らしく見せかけようとする魂胆が透けて見えた。また自分の家庭事情を持ち出して同情を引こうとするパフォーマンスもあった。しかしその何十倍・何百倍の被害者であるマンション住民の家族のことについては「済みませんでした」と一言で片づけている。彼は「自分にも気持ちの葛藤や一級建築士としての誇りもあった」と言っていたが、建築士の誇りとは「専門家としての良心」を貫くことだ。こんな人物に「建築士の誇り」などという資格はまったくない(ちなみに私も一級建築士の端くれなのです)。

 篠塚(元)支店長はなかなかの悪党だ。いや「筋金入り」だといってよい。不動産業や土建業の悪いイメージをそのまま体現したような人物だ。出入り業者から「営業経費」と称して賄賂を巻き上げる。もうそれだけでこの人物がどの種の人物かがわかるというものだ。また「経済設計」と称して設計段階で耐震強度の3割程度まで鉄筋やコンクリートを減らす。おまけに施工図を書き換えてさらに工事現場で減らす。その結果が建物の安全確保に必要な耐震強度の15%にまで構造強度が削減されているという凄まじさだ。それにもかかわらず施工会社の責任を全く棚に上げ、「建築確認申請図面通りにやっただけ」といって責任転嫁をして徹底的に言い逃れようとする。このような悪質な人物には司直の手を借りた刑事責任の追求以外に裁きようがない。

しかし、そんな彼の顔を見ていてひとつ気付いたことがある。それは彼が一番不安な表情を見せるのが木村(元)社長の証言のときだということだ。この木村という人物も耳の聞こえない振りをして回答を誤魔化すなどなかなかの狸親父である。まともな思考回路が欠落しているのか、それともわざと支離滅裂なことをいったのかわからないが、とにかく言うことが目茶苦茶なのだ。篠塚(元)支店長が深刻な顔をして木村(元)社長の方へ身体を乗り出すようにして見守っていたのは、自分たちに不利な証言をされて言い逃れができなくなることを恐れていたからだろう。彼の意識には自らの犯罪行為についても被害者のことについても全く関心がない。ただこの事態をどう乗り切って責任追及を免れるかだけだ。こんな建設会社の悪徳幹部の姿を目の当たりにして、被害者はいったいどれほど惨めな気持ちに襲われたことだろう。また真面目な仕事をしている建設会社はどれほど強い憤りを抱いたであろうか。

だが、今回の証人喚問の極め付きは何といっても内河総研所長の登場に尽きる。年齢は70歳をはるかに超えているが、頭脳明晰で弁舌もさわやか、目つきも鋭い。「カリスマ的経営コンサルタント」という名にふさわしい人物と見受けた。だから質問する側のレベルが低いと薄ら笑いを浮かべての余裕の回答である。声だけが大きくて内容のない自民党議員などに対してはまるで「解説」か「講義」をしているような大人の対応だ。しかし最終版の民主党馬淵議員(もう一人の民主党議員は最低だった)と共産党穀田議員の質問になってはじめて表情が一変した。

馬淵議員は「経営コンサルタントだから建築構造のことはわからない」、「構造のことがわからないから耐震強度の偽装指示など出来るはずがない」という内河総研所長の主張を一挙に覆して、総研には24人の所員のうち一級建築士5人、一級土木工程管理士5人が在籍していること、そのうちの次術幹部の一人が構造上の偽装指示を木村建設に対して自筆で署名捺印付きの文書をファックスで送っていることなどを現物の証拠を示して暴露した。穀田議員は岡崎市の事業者への現地調査に基づき、総研が構造設計から施工会社を含めて全てを取り仕切る開発業者であり、偽装の実態が外部に漏れないよう姉歯構造設計と木村建設に固執したことを指摘した。この両者の追求に対して、内河総研所長が「知らなかった」、「よく調査する」、「どう答えてよいかわからない」などしどろもどろの答弁だったのはいうまでもない。
証人喚問の第一幕は終わった。ヒューザー小嶋社長をはじめイーホームズ藤田社長や日本ERI鈴木社長など「隠れた主役」の民間検査機関の証人喚問はこれからだ。しかしその一方、警察や検察の強制捜査がいち早く始まるのではないか。両者が並行して行われるのであればまだしも、捜査がはじまればそれを理由にして証人喚問は中止されることも充分考えられる。国民の生命と財産に直結する重大事件だけに、これからも私たちの厳しい監視の目が求められる。