9月12日:疑似二大政党体制の崩壊

 昨日の総選挙の結果をみて驚いた。自民・公明両党が3分の2を超える議席数を獲得したというのだ。この「想定外」の事態をどう理解したらよいのか。日記を書いている現段階ではまだ十分な資料が得られないので詳しいことはいえないが、内容的に言えば「疑似二大政党体制の崩壊」、現象的に言えば「ドブ板選挙からマスメディア選挙への変質」というところだろう。

 財界・マスメディアは言うに及ばす、自民党も民主党も今回の総選挙で一挙に二大政党体制(正確に言えば保守二大政党体制)を確立するつもりだった。とりわけ民主党は野党ではなく「政権準備与党」としての性格を強く打ちだすことによって、「政権交代」という選挙スローガンで有権者にアピールしようとした。笑止千万だが、幹部議員には「次の財務大臣」や「次の防衛庁長官」などの肩書を麗々しく貼り付けて飾りたてたのもそのあらわれだろう。

 この二大政党体制への再編劇は小沢自由党と民主党の合併によって幕を開け、2003年総選挙での民主党の大躍進によって実現するかに見えた。長年続いてきた自民党の支配体制を民主党が打破してくれるかも知れないという期待が選挙中に国民のなかに芽生えたからだ。当選回数を重ねた自民党古参議員の「地域ボス」に対して、民主党は意識的に若手官僚や市民運動家を起用して「しがらみのない改革イメージ」を打ち出し、既成革新政党のお株を奪うことに成功した。選挙結果は、自民党が247議席から10議席減らして一定の影響を受けたものの、それ以上に大打撃を受けたのは20議席から9議席に半減した共産党、18議席から6議席へと3分の1になった社民党だった。民主党が137議席から177議席へ増やした40議席の大方は、共産党と社民党の目減り分でまかなわれた。自由党と民主党の大合併は、マスメディアの応援を得てあたかも「改革勢力」の担い手が新民主党にあるかのごときイメージづくりに成功し、既成革新政党を駆逐することによって保守二大政党体制への道を切り開いたかに見えたのである。

 しかし今回の総選挙で民主党にとって誤算だったのは、小泉首相が参議院での郵政民営化法案の否決を奇貨として、自民党内の「地域ボス」退治の演出に打って出たことだった。従来も現在も自民党の派閥ボスは、小泉首相自身が属する派閥の森前首相を持ち出すまでもなく例外なく利権にまみれた「地域ボス」だ。これはトヨタやニッサンなどグローバル企業の意向を体現し、グローバル企業国家の確立を目指す小泉首相にとっては「抵抗勢力」であり「古い自民党」に他ならない。だから「自民党をぶっ壊す」という彼の言葉は嘘ではない。そのチャンスが郵政民営化騒動をめぐって訪れただけのことである。「刺客」として選考されたのは、経済財務官僚・金融資本のエキスパート・IT産業経営者などのエリートに集中したのはそのことを余すところなく物語っている。

 残念ながら現在時点では、国民の目には「地域ボス」に代表される土建議員などの「古い自民党」は国民の税金を浪費する悪玉として見えても、グローバル資本の利益を代表する「新しい自民党」はまだよく分からない存在だ。むしろ高学歴で英語を自由に操るようなアメリカ仕込みのエリート層とりわけキャリアウーマンに対しては、どこかに憧れの感情すら抱いている。そしてドブ板選挙で叩き上げてきた泥臭い地域ボスではなく、マスメディアの世界に華々しく取り上げられるスター政治家がどことなく「善玉」に見えるような心理状況にある。それは、日常の苦しい生活から逃避してひとときの恍惚に浸るための「宝塚劇場」のような効果を与えるのかもしれない。

 かくして国民の目は「小泉劇場」に釘付けされることになった。シナリオは小泉首相と側近が書き、演出はマスメディアが引き受けたのである。そして主役・脇役・馬の足が入り乱れるなかで壮大な「新しい自民党」をつくるためのショーが展開され、個々の役者の顔や演技はさておき、「改革イメージ」がきらびやかに彩られる舞台が出現した。(続く)