3月7日
最近のニュース報道やモーニングショーを見ていると、ライブドアとニッポン放送・フジテレビの攻防劇や堤義明前コクド社長の逮捕劇ばかりが出てくる。「他にニュースはないのか」と思いたくなるほどの露出ぶりだ。こんな気持を押さえきれずにいたら、先日のさる集まりでの席上で、「他に隠したいことがあるからじゃないの」という声が出た。ジャーナリズムの内情に詳しい研究者からである。
それによれば、最近のNHKのニュース放送ではライブドア関係のやりとりがやけに詳しく報道され(過ぎ)ているのだそうだ。彼が時間を計ったところ、午後7時台の30分ニュース番組のなかでなんと12分も使って「堀江がどうの」「日枝がどうの」と瑣末なことまで延々と報道していたという。大したニュースバリューがあるわけでもないのに、ニュース全体の1/3以上もの時間を費やすなんてまるで大事件並みの扱いらしい。異常きわまるニュース編成だそうだ。
そういわれてみると確かにそうだ。別に報道する価値がないとまではいわないが、とくに驚くほどのニュースでもない。堀江氏のような外資を使って(あるいは外資に利用されて)企業買収に殴り込みをかけるような人物を生み出したのは、他ならぬ小泉構造改革の規制緩和・新自由主義路線の成果そのものだからだ。堀江氏はまさに小泉構造改革の「申し子」であり、逆に表彰されて然るべき人物なのである。それがどうして小泉内閣の閣僚や自民党から非難されるのか、まか不思議というほかはない。
一方、防戦側に回っているフジテレビの方の言い分も噴飯ものだ。こともあろうに「放送の公共性」を持ち出して、ライブドアの手に渡るとあたかもそれが冒されるかのように主張している。でも考えてもみたい。ニッポン「放送やフジテレビなどのサンケイグループが財界の手によってマスメディアに送り込まれ、「サンケイ残酷物語」と称されるほどジャーナリズムの公共性を踏みにじってきたのは周知の事実ではないか。自らは右翼評論家や自民党タカ派の広報機関として偏向番組をこれまでいやというほど垂れ流しておきながら、経営を乗っ取られそうになると一転して「公共性」の担い手であるかのように装う。これほど勝手な御都合主義はあるまい。
本題に返ろう。それでは「ライブドア狂騒劇」の裏にいったい何が隠されたというのか。いうまでもなくそれは、朝日新聞やNHKディレクター自身が暴露したNHKの慰安婦問題に関する番組改ざん事件である。それがライブドアの報道以来ぱったりとニュースに出なくなった。自らの一方的な言い分を客観的な「NHKニュース」としてあれほど大量に流しておきながら、ライブドアの報道が始まってからは何時の間にかどこかへ完全に消えてしまったのだ。そして本来は被告席にいるはずの安部氏や中川氏は、NHKニュースの中で言いたい放題を言った挙句、いまや涼しい顔で居直っている始末なのである。
しかし事柄はそう簡単ではない。NHK関係者から聞くところによると、NHKが朝日新聞を名指しして一方的なニュースを流せば流すほど受信料契約の解約や支払い拒否がうなぎのぼりで増えていったのだという。その正確な数字は公表されていないのでわからないが、予測されていたような数十万世帯どころの話ではなく、100万世帯を超えんばかりの勢いなのだという(かくいう私も遂に解約に踏み切った)。そこで取られた戦術転換がライブドア狂騒劇に乗じての「改ざん事件隠し」と永井多恵子元解説委員を副会長に起用しての「お詫び行脚」の演出である。
私はNHKの数ある解説委員の中でも永井氏の力量を高く買っていた。NHKには新聞社のように「論説委員」がいない。いるのは「解説委員」だけだ。権力から独立したマスメディアであれば、新聞の社説や論説のように独自の主張がなくてはおかしい(もっとも読売新聞のようなケースもあるので一概にはいえないが)。ところがNHKには「解説委員」がいるだけで「論説委員」は置かれていない。政府の顔色をうかがって独自の主張を打ち出すことができず、「ニュース解説」程度でお茶を濁してきたのである。しかしそんな限界を持ちながらも、心ある解説委員は自らの主張を盛り込もうと努力していた。永井氏は数少ないそのひとりだったのである。しかしいま、「お詫び行脚」をさせられている永井氏の姿は痛ましい限りだ。その光景には、永井氏が女性であることを利用して視聴者の憐れみの感情を誘い、改ざん事件をなし崩しにして事態を何とか乗り切ろうとするNHKの薄汚い魂胆が透けてみえるのである。どうして海老沢前会長の下で報道の実権を握っていた担当理事が出てこないのか。心ある視聴者がその魂胆を見抜けないとでも考えているからであろうか。
同様のことは、堤容疑者の逮捕劇にも当てはまる。確かに「堤商法」はあくどい。しかし、堤関連ニュースが拡大すればするほど消えていった事件がある。それは自民党橋本派の政治資金規正法を掻い潜った日歯連等の裏金事件の顛末だ。3月3日に堤容疑者が逮捕され、全てのマスメディアの報道がそれに集中する中で、その2日後の紙面にひっそりと橋本氏の不起訴が報じられた。検察当局は、検察審査会の不起訴不当の勧告を受けて形式的に事情聴取をしたものの、橋本・青木・野中の「灰色三羽烏」を予定通り不起訴処分にしたのである。そしてその「不起訴処分」が国民の批判に曝されることを避けるために、この時期に堤逮捕劇を大々的に演出して「目くらまし」を計ったのである。
時代は情報時代だといわれる。物凄い情報がマスメディアを通して流されてくる。だがその中から価値ある情報を選択し、真実を見ぬくのは容易なことではない。まして報道されなかったニュースや消されていった情報まで目を配ることは至難の技だ。それでも私たちは「紙背に徹する眼光」を持たなければ生きていけない。この日記が少しでもそんな読者の目を養うためのお役に立てればと思う。