1月20日

  今週は文字通り「阪神・淡路大震災10周年記念ウィーク」だ。16日から膨大な震災記念行事が神戸で一斉に始まった。いったいどのイベントに参加したらよいか迷ってしまう。そこで幾つかの方針を立てた。(1)無味乾燥な公式行事はできるだけ避ける、(2)小人数といえども本音で語り合う集まりを重視する、(3)自分が関係している組織やグループの会合やイベントには積極的に参加する、(4)資料を入手できる会議や場所にはできるだけ顔を出して可能な限り資料を収集する、というものだ。そんなことで、17日は阪神・淡路まちづくり支援機構の座談会と台湾・神戸震災被災地市民交流会、18日は新長田駅前再開発事業視察と国連防災世界会議の総合防災展に参加した。

  それぞれの感想を述べると話が長くなるので、最も印象的だった国連防災世界会議の総合防災展についてのみ記そう。国連防災世界会議そのものは5日間の長丁場で、60数会場にわたって国連各機関・政府機関・専門学会・国内諸団体などがシンポジウムやセミナーを開催するというもの。しかし私のお目当ては、神戸国際展示場で開催される総合防災展での資料収集だ。総合展の趣旨が「映像、パネル、模型、機器等の展示を通して、政府機関、地方自治体、防災関係機関、学会、NGO/NPO、企業等各団体による減災社会にむけた取り組みや、阪神・淡路大震災の経験と教訓について発信します」という立派な口上なので、この際一挙に内外の情報を集めようと思ったわけである。しかも事前のパンフレットによれば、展示ブースを設けるのは、ヨーロッパ委員会など国際機関が13、国土交通省など政府機関が20、建築研究所など防災関係機関が16、地方自治体が兵庫県・神戸市など10、民間企業が100近くにも達する。さぞかし貴重な情報が得られるものと初日から意気込んで出かけた。

  だが、期待が大きかっただけに失望も大きかった。たしかに普段では得られない防災関係のデータや政策解説などの資料は若干得られたが、展示そのものはきわめておざなりで驚くほど低レベルのものが多かった。ただし低レベルといっても2種類ある。第1は体裁は立派だが中身がないもの。政府機関のブースがほぼこれに該当する。「阪神・淡路大震災の経験と教訓について発信します」と銘打っているのに、パネルのどこにもそれらしきことが書かれていない。例えば、国土交通省は専ら政策や制度の説明だけで、住宅耐震補強技術の紹介はあっても住宅復興への財政支援については一言も触れていない。内閣府や警察庁にいたってはパネルが数枚貼っているだけで、パンフも置いていないし、説明要員もいない。ガランとした寒々とした風景が広がっているだけだ。

  しかし悲しいことに、もう一つの低レベルを象徴するのが地方自治体のブースだった。まず今回の大震災で災害救助法の適用を受けた10市10町のうち約半数の自治体が来ていない。震災直後には「阪神大震災」ではなくて「阪神・淡路大震災」だとあれほど強く主張した淡路島の各自治体が10年目になるとどこ一つ来ていないのである。これでは農村部の被災経験や教訓が完全に欠落してしまう。

  でも参加した自治体の展示がどうだったかというと、これがまた「世界の恥さらし」という他はないほどの酷い代物なのだ。例えば、宝塚市は「人と自然がふれあう心豊かなまち〜宝塚〜震災からの復興」というのが触れ出しなのだが、ブースでは震災や復興とは何の関係もない宝塚歌劇のビデオが延々と放映されているだけなのである。また尼崎市は「近松のまちあまがさき」というテーマにふさわしく浄瑠璃人形が飾ってあるだけ、「地震を乗り越えて」という明石市は実質的には物産展か観光案内そのもの、「防災工具と復興への取り組み」を標榜する三木市は地場産業の金物工具を並べてあるだけといった具合である。そこには大震災に直面して苦闘した各自治体の面影の片鱗もうかがうことができない。聞けば、渋る各自治体を兵庫県が無理押しして出させたとのことだが、それにしても出させる方も出る方も「恥も外聞もない」とはこのことだろう。

  それからもう一つ驚いたのは、参加団体の有力な一角を占めるはずのNGO/NPOがそれぞれ僅か1団体ずつに過ぎなかったことだ。1つのブースを借りるのに30数万円も取られるというのでは、よほどの力のある組織でなければ不可能だろう。どうして兵庫県がフロアーやブースを無料で確保して、震災復興の礎となったNGO/NPOの参加を呼びかけなかったのか。阪神・淡路大震災の復興からボランティア活動やNGO・NPO活動を除いたら何も残らないことぐらいは知っているだろうに。

  そんな中でただ一つのNGOとして気概を示したのは、私も一員として参加している兵庫県震災復興研究センターだ。このNGOの活躍なくして阪神・淡路大震災の復興は語れない。それほど大きい理論的貢献と社会的実践を重ねてきた団体である。同センターはこの10年間休むことなく、その節目節目に震災復興についての時宣を得た政策提言をしてきた。その集大成が『大震災100の教訓』(2002年10月、クリエイツかもがわ)であり、また今回に合わせて出版された『大震災10年と災害列島』(2005年1月、同)と『Lessons from the Great Hanshin Earthquake 』(2005年1月、同、『大震災100の教訓』の英訳)である。この3冊の著書は、いずれも震災復興に献身してきた市民活動家や専門家・研究者が数十人で執筆したもので、まさしく「阪神・淡路大震災の経験と教訓を発信」する貴重な媒体と評価されるべき存在だろう。18日の日経夕刊は早速この本を取り上げ、世界に阪神・淡路大震災の内実を知らせる有意義なこころみとして紹介している。つれづれ日記の読者各位にも是非読んでほしい。