11月16日
昨日、アムステルダムのスキポール空港から関西空港へオランダ航空(KLM)の直行便で帰国した。さすがにこの年になると、エコノミークラスの12時間は辛い。それにKLMは手荷物の20キロ制限が厳密だから、過重分を機内持ちこみでカバーしようと思うとどうしても手持ちが多くなる。8時間の時差(ボケ)と過重手荷物のおかげで目下フラフラというところだ。
今回も中国の西安と同様、現地から「つれづれ日記」の原稿を送ろうと思っていたのだが、実はホテルでの接続がうまくいかなかった。一緒に行ったスタッフが多忙で頼めなかったからだ(自分一人ではなにもできないという意味)。それに少し勘違いもあった。出発前の日記で、会議をマネージするのはハーグの国際的なボランティアセンターだと書いたが、正確には「VNGインターナショナル」という民間非営利組織だった。
VNGインターナショナルの親組織である「VNG」それ自体は、1912年創立の90年の歴史を誇る世界で最も古い自治体組織の一つで「オランダ自治体協会」といい、現在は500人のスタッフを擁する巨大組織である。VNGインターナショナルは、オランダ自治体の経験を国際的に広めるためのVNGの国際部門として1993年に設立され、2001年からは子組織として独立した。ハーグに本部、国外に7つの国際プロジェクトオフィスを持ち、38人の専門家スタッフを抱えている。地方分権と自治体運営能力の向上に焦点を当てたプロジェクトを年間50〜60件をこなし、その活動は発展途上国を含めて世界各国に及んでいる。注目されるのはその資金源で、各国からのプロジェクト資金に加えて、オランダ外務省・内務省、ヨーロッパ連合、世界銀行、国連各機関などから導入されている。いわば自治体行政に関する国際的な非営利調査研究機関だといっていいだろう。
今度の3日間にわたるシンポジウムは、龍谷大学とVNGインターナショナルとの連携によって実現したもので、テーマは「ヨーロッパにおける最近の市民参加動向(の意味するもの)」である。これは現代の自治体行政における市民参加と政策形成に焦点を絞ったシンポジウムで、基調報告と全体討論の場である全体会議、理論・実践・ノウハウに関する3つの分科会から構成されていた。詳しい内容はいずれどこかで報告するとして、今日はいくつかの印象に限って記そう。
まず第1に驚いたのは、その多彩な討論者の顔ぶれだ。「ヨーロッパの市民参加動向」というタイトルだから、てっきりオランダをはじめ西ヨーロッパ中心の報告と討論かと思っていたら、北欧(フィンランド)・東欧(ルーマニア、ポーランド)に加えて、アフリカ(ナンビア、ナタール、南ア連邦)、インド、韓国からの参加者も含めて比較視点からの活発な討論が展開されたのはきわめて刺激的だった。このような多彩な討論者が組織された背景には、どうやらこれまでの伝統的な思考枠組の「先進国・後進国モデル」(単線型近代化モデル)から脱却して、それぞれの国や地域の独自の発展形態や経路を評価しようとする複線型思考が支配的になってきたことがあるようだ。先進国をモデルにして追いつき追い越せという時代が、もはや「時代遅れ」になってきたことを痛感した。
それからもう一つ印象的だったのは、市民参加の原動力である「参加民主主義」を「代表制民主主義」と「直接民主主義」との関連でどう理解するかという政治制度の根本問題をめぐる議論だった。きっかけはヨーロッパにおいても最近になって各種選挙の投票率が軒並み低下してきており、これをどのように克服していくかについての議論だった。富野教授(日本側代表)はこの現象を「政党制度を前提とする代表制民主主義の制度疲労」として捉え、それに代わる参加民主主義の枠組を新しく作るべきだとの持論を展開したのに対して、ヨーロッパ側参加者のほとんどが政党政治と代表制民主主義を擁護する論陣を張ったのは興味深かった。つまり参加民主主義は代表制民主主義に取って代わるのではなく、それを補強し改善する機能を果たすものだとする理解である。
この論争は、今回の市民参加に関するシンポジウムでも最もコア部分に位置するものだと思われるが、私の意見はむしろヨーロッパ側に近いだけに大いに気を強くした。日本では公職選挙法をはじめ「選挙をさせない法律や制度」が有権者の投票行動に極めて大きな否定的影響を与えていると考えるからだ。この点については、今後、富野教授と大いに議論を交わしてみたい論点である。
明日以降、「オランダ日記」をしばらく連載してみたい。