つれづれ日記
9月6日

  このあまりの悲惨さ、あまりの酷たらしさをいったいなんと言って表現すればいいのだろう。9月1日にチエチエンの武装勢力がロシア・北オセチア共和国の小学校を占拠して立てこもった瞬間から、子どもたちを含む多数の人質の安否を世界中の人々が固唾を呑んで見守ってきた。だがそれも束の間、ついに最悪の事態を迎えるに至ってしまった。このような惨劇を引き起こした武装勢力がまず非難されるべきはいうまでもないが、しかし私は、それ以上にプーチン大統領の政治責任は何百倍、何千倍、いや何万倍も大きいと思うし、また許せないと思う。

  彼は口先では「人質の救出を最優先する」といった。だが、昨年のモスクワ劇場事件で犯人グループと人質を一緒くたにして毒ガスで大量に殺した冷酷無比なやり方をみれば、それが単なる世論工作でしかないことは一目瞭然だ。今回の事件でも千人を超える膨大な人数の人質が拘束されていたにもかかわらず、3百人余りと発表してできるだけ事態を小さくみせかけようしたこと、特殊部隊が偶発的事態を契機にして突入したとしているが、その実は人質の生命安全確保などお構いなく犯人グループの抹殺だけが目的であったらしいこと、その結果9月5日現在で死者330人、行方不明者260人、負傷者700人という、人質の8割に達するような信じられないような数の犠牲者を出していることなど、戦慄すべき事態が刻々と明らかになってきている。またインターネット情報によると、死者はすでに600人に達しているとの報道もある。

  しかし衛星放送で彼の演説を聞いていると、このテロ攻撃はロシア政府やプーチン大統領にも向けられたものではなく、ロシア国民全体とロシア国家に向けられたものだと強調して、事態の本質を国民の目から一貫して逸らそうとしている。またアルカイダ組織との関連を示唆して、ロシア国家はいまや国際テロの標的になったとも言っている。いずれの主張も、この事件が自らの責任につながる国内問題(チエチエン共和国の独立問題)に起因するのではなく、まるで無垢の国民や子どもたちがある日突然「外敵」から攻撃されたかのような口ぶりだ。そして自分は「ロシアとロシア国民をまもるためにテロとの闘いの先頭に立つ」というのである。

  このような言いぐさはまるでブッシュ大統領そのものだ。寸分も違わない。ときあたかもアメリカでは大統領選挙前の共和党全国大会が開催されているが、そこでのブッシュ大統領の候補者受託演説は、「アメリカとアメリカ国民をテロ攻撃からまもり、アメリカに平和と安らぎを実現する」というものだった。まるでアメリカが国際テロの一方的な受難者であり、ブッシュ大統領はまるでその危機を救う殉教者のような言い方ではないか。大量破壊兵器の存在と国際テロ組織との結びつきを理由に先制攻撃をかけ、イラクの国土と都市を徹底的に破壊してテロとは何の関係もない数万人の市民を殺戮したのはいったいだれなのか。先制攻撃の根拠がすべて虚偽であったことが判明した現在においても、イラクの「復興」を掲げて占領を続けているのはだれなのか。「テロに強い指導者」とのイメージを演出してプーチン大統領に「深い同情とともに闘う決意」を示し、北オセチア事件を大統領選挙に最大限利用しているのはだれなのか。

  そういえば、つい最近日本でも同様のことが起きた。イラクで人道支援をしていたボランティアやジャーナリストが拘束されたとき、イラク派兵によってこのような事態の原因をつくり出したはずの戦争勢力がこともあろうにボランティアの「自己責任」を追求し、問題の所在をすり替えようとの挙に出たのである。またスペインで鉄道爆破テロが発生したとき、小泉首相は「日本国民もテロに対して警戒心と覚悟を持つべきだ」と語った。問題発生の原因を取り除いて国民の生命と生活の安全を保障するのが政治家の責任であるにもかかわらず、原因の当事者が「結果責任」だけを国民に押しつけているのである。

  この数日間、テレビの衛星放送ニュースに釘付けになる毎日が続いている。スポーツ番組も娯楽番組も全く見る気になれない。NHKニュースでもアナウンサーがスポーツニュースになると急に笑顔になるのが気になる。もちろん情報の質が違うのだからニュースの内容によってアナウンサーが表情を変えるのは当然だとわかっていながら、その瞬間芸に強い違和感と抵抗感を覚えるのである。

  そんな折に、「憲法、とくに9条を守るための緊急のよびかけ」が「憲法9条・メッセージプロジェクト」(代表、安斎育郎立命館大学国際平和ミュージアム館長)から届いた。6月10日に結成された「9条の会」のよびかけに呼応して、各界各層の人たちが憲法9条を守るさまざまなメッセージを持ち寄り、それを全国津々浦々に広げていこうとの草の根平和運動のよびかけだ。私もそのよびかけ人の一人に参加することを即座に決意し、「憲法9条は平和日本の生命線です。このライフラインを死守することなくして、21世紀の日本の未来はありません」と書いた。