8月22日
西安第3信。今回のプロジェクトはもちろん学生主体だが、教員相互あるいは行政との交流も重要な目的の一つだ。学生たちの制作活動と平行して、19、20日の2日間にわたって開かれた研究交流会について報告しよう。この交流会は、日中双方から各4人、計8人の研究者・専門家が1時間ずつそれぞれのテーマについて講演し、2日目の午後に一括討論を行うというものだ。1日目は、「戦後日本の都市計画の失敗と教訓」(広原)、「保存と開発ー西部開発における歴史的郊外都市建設計画論」(劉建牢、陝西省都市計画・建築研究院計画室長)、「日本の都市計画における都市景観の現状と問題点」(小林大佑、京都文教大学講師)、「秦始皇帝陵の保存計画」(汎少言、西北大学副教授)、「日本の現代建築設計」(松岡拓公男、滋賀県立大教授)、「歴史都市の段階的再生ー漢中市の場合」(奨尚新、陝西省都市計画・建築研究院副院長)の6本。2日目は、「現代日本のまちづくりと住民参加」(堀口浩司、地域計画・建築研究所計画副部長)、「建築新時代における西安都市計画体系」(強小安、西安市長安区発展計画局長)の2本、そして段練需副教授(西安工程科学技術学院)の特別講演「西安市の歴史と現状」である。これらの内容についてはいずれ詳細な報告集が出されるので省略するとして、ここでは2日目午後の相互討論の興味ある論点についてだけ紹介しよう。
まず第1は、西安市は現在空前の開発ブームに直面しているということだ。江沢民前国家主席の西部大開発の大号令からわずか数年しか経たないのに、市内一円で土木建築工事が所かまわず行われている。とりわけ目立つのは幹線道路の新設・拡幅工事と郊外工業団地の政府企業・民間企業の工場建設だ。また市内の主要大学は軒並み郊外に広大な大学キャンパスを拡張している。しかしこの大開発計画に関しては、中央政府・陝西省・西安市の政治官僚機構と大学研究者との間に深刻な対立があることがわかった。とりわけ市内幹線道路の拡幅工事が沿道の伝統的町並みを根こそぎ撤去して進められている状況は日本でも考えられないほどの乱暴なもので、このような住民不在・伝統破壊の都市計画をどのようにして改めさせることができるかが最大の論点になった。日本側は住民運動を背景にしたさまざまな反対運動の取り組みや裁判闘争の展開、あるいは研究者・専門家の批判活動などを紹介したが、政治官僚が全ての実権を掌握している中国ではこのような方法は直ちに実現できるものではなく、政治民主主義の確立と成熟なくして住民参加のまちづくりもおよそ不可能である現実が浮き彫りになった。
とすれば、いったいどうすればよいのか。ここから第2の論点が出てくる。この研究交流会に出席している中国側の研究者・専門家は、いずれも現在の都市計画に批判的な少数派だ。すでに彼らは個人的レベルでさまざまな働きかけをしており、また研究論文としても発表している。しかしそれが功を奏しない現実に直面して悩んでいるのである。また文化大革命の後遺症がとりわけ研究者・専門家の人材養成面で深刻であることが繰り返し表明された。文革そのものは10年間だが、人材養成が中断していた期間は20年に上るという。文革後、ケ小平によって大学資格試験が制度化されたときには、18歳から38歳までの世代が同時に受験したのだそうだ。この世代の人たちは大学に行きたくとも行けない期間が最長で20年間も続いたことになる。現在の大学教員にしても40歳台後半から60歳台前半の20年間分が完全に空白になっているので、研究の蓄積や継承の面で多大の障害がでているという。都市計画研究の面でも、現在のポスト文革世代を指導する熟達した研究者がまったくいないのである。
討論の末、いくつかの打開方向が確認された。(1)官僚機構に対するもっと効果的な働きかけ方を考える、(2)経験未熟な都市計画・建築技術者に対して新しい都市計画コンセプトすなわち「まちづくり」の考え方を広める、(3)これからのまちづくりを担う都市計画・建築学科の学生たちの教育カリキュラムを充実させる、(4)京都と西安の研究者・専門家が協力して具体的な活動を始める、といったあたりが当面の実践的な課題として確認された。今回の交流で、このような合意が日中両国の研究者・専門家間で成立したことの意味は重要だ。たとえば来年あたりから、西安の学生たちに対しての合同(集中)講義を我々日本側が用意するとか、陝西省や西安市の都市計画・建築技術者に対して西安各大学研究者と合同で研修や討論会を行うとか、そんな意見が交流会後の懇親会で大いに飛び交った。「瓢箪から駒」ではなく「小さな駒から大きな駒」が出てきそうな可能性が生まれたのである。
それにしても今回の交流会で痛感したことは、自分の中国語の勉強不足、そして「パワーポイント」を使えない講演の迫力のなさだった。これではとても中国の学生たちにはいいたいことを伝えられそうにない。これからの1年はこの2つの課題に挑戦し、少なくとも10コマ分の講義が可能になる程度のレジュメをパワーポイントで準備することを決意した。