つれづれ日記
8月5日

  夏休みが近づくといつも皮肉まじりにいわれる言葉に、「大学の先生は休みばかりでいいね」というのがある。その人が学生時代に遊んでばかりいたのか、それとも一般通念として浸透しているのかのどちらかだろうが(両方のケースもある)、実態は逆だ。それもとりわけ夏休みが忙しい。しかも最近は「セメスター制度」(講義期間を試験も含めて半年で完結)が普及したこともあって、7月一杯はまず講義や会議で詰まっている。それに後期は9月下旬から始まるところが多いので、実質的な夏休みは1カ月半というところだろうか。そこでいろんな行事がこの期間中に集中する。

  例えば、夏休みが始まったこの1週間だけをとってみても、重要なイベントが立て続けに3回もあった。7月31日(土):「第7回(京)次世代都市交通導入フォーラム」、8月1日(日):国際シンポジウム「日本と中国、歴史都市の保存再生に向けて」、8月3日(火):阪神・淡路まちづくり支援機構付属研究会「淡路島被災地域復興現況視察調査」である。どれもこれもが重要な内容をはらんでいて、とても簡単に書ける代物ではない。しかし時間的余裕がないので「ダイジェスト版」にし、とにかく記憶に留めることにしよう。

  7月31日のフォーラムは、「京都にLRT(高性能路面電車)を導入しよう」という専門家グループの集まりだ。それも単なる好事家やマニアの会合ではなくて、れっきとした交通専門家や交通事業関係者が主体の実践的な研究組織である。フォーラムそのものは、LRTが都市交通システムとしてどれだけすぐれているか、外国ではどうなっているかといった「啓蒙普及レベル」の段階はもうとっくの昔に卒業して、いまでは、京都でどう実現するかという「実施導入レベル」の段階に入ってきている。だから参加者の顔ぶれも、最近フランスからLRT販売権を獲得した三井物産交通事業部の幹部、将来的な電力需要の安定的確保を目指す関西電力・東京電力の研究員、交通コンサルタントなどビジネス関係者も多い。

  しかし何といっても今回のハイライトは、京都商工会議所や京都経済同友会で交通・まちづくりの論客として知られる平井義久氏(西利社長)が、「いつまでも議論ばかりしていても駄目だ。京都で具体的にどう実現するかを考えないと。この問題に関しては京都市も市議会も超党派で行動すべきだ」と明快に主張したことだろう。これまでは提案するばかりでなかなか腰を挙げようとしない京都の経済人が、ここまではっきりと物を言うのは珍しい。場の雰囲気に業を煮やしたのか、それともなにか成算があっての態度表明なのかわからないが、いずれにしても新鮮な発言だったことは間違いない。私も「平井さんがLRT導入を呼びかけるのなら、一緒にやろう」と応じたが、フォーラムの後、会の世話人グループも導入に向けて新たな第1歩を踏み出すときがきたと語っていた。

  8月1日の国際シンポジウムは、日中合同の研究プロジェクト「歴史都市の保存再生」に関する研究成果の発表会だ。日本側からは、元京都市技術職員で京都の都市景観保存の最大功労者である大西国太郎氏(京都造形芸術大学客員教授)や苅谷勇雅氏(文化庁建造物課長)など。中国側からは、中国の歴史都市研究の第一人者である朱自宣氏(北京・精華大学教授)や張松氏(上海同済大学教授)の豪華メンバーだった。詳しい報告はいずれまたどこかで紹介したいが、私の主たる関心は、8月9日からの西安訪問を目前にしているということもあって、西安など中国の歴史都市をフィールドにして行われた合同プロジェクトの具体的方法に向けられた。聞けば、日中大学研究室が学生も含めて詳細な共同調査を行い、それに参加した市当局が従来の官僚的認識を改めるという「劇的なプロセス」を通してはじめて、歴史都市の町並み保存・景観修復のためのプロジェクト提案が可能になったのだという。どこの国でも「役人は同じだ」といったら叱られるが、それを知り抜いている人たちだからこそ、このプロジェクトが成功したのだろう。

  8月3日の淡路島被災地域視察調査は、ぶっ倒れるかと思うほどの炎天下の過酷な調査だった。あの阪神・淡路大震災から来年1月で丸10年、いま兵庫県下では一斉に震災復興事業の検証作業が始まっている。弁護士・建築士・土地家屋調査士・不動産鑑定士・税理士・司法書士などの復興まちづくり関連の専門家団体を結集した「阪神・淡路まちづくり支援機構」を設立してからでも、もう8年になる。神戸市など阪神地域は復興状況も比較的よく知られているが、淡路島になるとそれほど情報も多くない。それに何よりも大都市市街地と農村・漁村集落では被災状況も全く違うのだ。

  今回の調査は、来るべき東南海大地震の広域高潮型沿岸震災に備えてまちづくり支援機構の付属研究会を再開し、それと同様の地理条件をもつ淡路島漁村被災集落の復興状況を視察する目的で行われた。この報告もまた別途詳しくしなければならないが、一言でいえば、(1)都市型の復興事業を機械的に農村・漁村に適用するのは決定的に誤りであること、(2)住民合意に基づない復興事業は恐ろしく無駄な時間とエネルギーを浪費し、しかも満足感や達成観が得られないこと、(3)国・県や市町村の行政能力には限界があり、結局は住民の力量をどう引き出すかが復興事業の成否を分けること、(4)市町村合併による自治体リストラがこれから進んでくると、自治体の人員・財源がますます手薄になり、住民が主体にならない復興まちづくりは事業そのものが成立しなくなるおそれがあること、などである。

  このホームページも8月7日から18日まで夏休みになりますので、暫くはお休みをいただくことになります。私自身は西安から原稿だけは送り続けるつもりですが、掲載はお盆明けになります。読者諸氏には身心ゆたかな夏休みをお送り下さい